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題名: 三つの小さな王国     
原題: Little Kingdoms      
著者: スティーヴン・ミルハウザー
訳者: 柴田元幸         
発行: 新潮社 (98.4.30)     
価格: \2000
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【内容紹介】
 本書は3つの中編からなり、第一話「J・フランクリン・ペインの小さな 王国」は、1920年代ニューヨークを舞台に、分業化・機械化の波に抗し て、手作りのアニメーションをこつこつと一枚一枚夜なべで書き続ける新聞 漫画家の話。
 第二話「王妃、小人、土牢」は、時代も場所も特定されていないが中世中 欧風の城壁都市を舞台に、夫である王のいわれのない嫉妬がもとで、城の逗 留者である辺境伯との関係を巡って大いなる苦悩を強いられる王妃の話。  第三話「展覧会のカタログ――エドマンド・ムーラッシュ(1810-46)の芸術」 は、19世紀前半、最愛の妹とともにニューヨーク州北部の田舎に住んで独 自の絵画世界を作り続けた男の話。
 描かれている世界はそれぞれまちまちで全く別の物語としても鑑賞できる が、一種の統一性に貫かれている。

  【感想】
 この物語群においてはいずれも、親しくまた信頼し合っていたはずの人間 同士のささやかなくいちがいが、やがて致命的齟齬をきたす世界が描かれて おります。その原因はそもそも各人に内包されていたのか。それとも病原体 のようにどこからか舞い込んだのか。その契機となったのは、第三者なのか、 あるいは予め定められていたことなのか。
 ほとんどの読者は、人物などの設定が提示された段階で、ほぼ彼らの運命 が予見できるでしょう。さして明るくはないが、各自に取ってみれば「選び 取った」としか言い様のない世界を。
 第一話。ブラッドベリやフィニイだったら、アメリカンノスタルジーにひ たりきり、バーナム博物館や巡回博覧会の世界で絢爛な幻想を繰り広げるこ とでしょう。自分でもわかってはいるのだが、それでも一線を越えて自分だ けの世界に突入し、作品中ではおのれを取り戻したかのように自由奔放に遊 びます。そして結局は幻想の中でのみ、実はいちばん理解して欲しかった離 れて行った者たちからも賞賛を浴びるのです。その悲しさ…。
 第二話は、伝承の断章を思わせ、あたかもマルチエンディングのRPGの ような形式となっております。人間関係はいかようにも変更できるのですが、 結末はどのようにたどろうとやはりTragedyに至ってしまいます。疑惑の芽か ら人情もからんで悲劇に追い込まれていくという点では、近松の世界にも共 通するようです。ここでは常に囁き声が聞こえます。悪魔ではない、強いて 言えばタナトスの、というところか…。
 日常生活の危ういところを突き、現在進行のホラー味も含んで、やはりこ の中ではいちばんのお気に入り。
 第三話は、もっとも暗い雰囲気を保っています。悲劇味・運命味が強すぎ てゴシックロマンという感じになり、主人公自体の紡ぐ幻想がよく見えない のは残念。そのひねった形式は、なかなか面白いのですけど。


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