| タイトル | 著者名(翻訳者) | 出版社名(発行日) | 価格 | 内容・短評 |
|---|---|---|---|---|
| ヒヤシンス・ブルーの少女 | スーザン・ヴリーランド(長野きよみ・訳) | 早川書房(2002/06/30) | \1,600 | その一枚の絵、もう一枚のフェルメール「青いターバンの少女」は、所有者の視線を織り込みつつ、時代をめぐっていく。 絵はなにも変わっていないようではあるけれど、その前で人々は勝手に愛し去っていく。人々の目に映り、また時代を経た絵は、成長しているのではないか とすら思えますね。 「十分に愛しなさい」(現代アメリカ、ドイツ系移民の数学教師)。「すべての夜と違う夜」(第二次大戦中アムステルダムユダヤ人家庭)。 「警句」(19世紀末オランダ、フレーラント)。「ヒヤシンスの青」(フランス支配下19世紀初頭オランダ、デン・ハーグ)。「朝の輝き」(オランダが歴史的大洪水 に見舞われた1717、デルフザイル)。「アドリアーン・クイペルズの手記から」(同時期)。「静かな生活」(1670年ころのオランダ、デルフト。 貧しい絵描き一家の娘)。「マフダレーナが見ている」(1670-1696、オランダデルフト・アムステルダム)。 |
| 紙の迷宮(上下) | デイヴィッド・リス(松下祥子・訳) | 早川書房(2001/08/15) | \1,520 | 1719年ロンドン、公的警察もなく治安は市や有志の夜警にかろうじて頼っていた時代、自分の身は自分で守らねばならなかった。
ユダヤ人ベンジャミン・ウィーヴァーは「ユダのライオン」というリングネームで勇名を馳せたボクサーだったが、負傷引退から放浪の後、
ロンドンで老紳士を追い剥ぎから助けたことから「調査員」として身過ぎしていた。この業界では「盗賊捕獲長官」兼盗賊の元締め兼
故買屋のジョナサン・ワイルドが著名である。ある日、父が破産の末自殺したという男が現れ、ウィーヴァーの父の死も同じ陰謀の犠牲者であると告げる。
それはイングランド銀行とならんで「証券」を扱おうとしている「南海会社」に関係あると言うらしい…。
草創期の株取引、バブル経済を背景に、18世紀初頭のロンドンというなんだかおなじみでもあるような世界を描くMWA新人賞作品。 ユダヤ人という「差別されて当然の人々」が「証券」という武器を手に入れてついに金融界を支配するというシナリオがちょっと透けて見えたりして。しかし、バブリーな欲望はいつの時代も同じですな。 |
| ラストオーダー | グレアム・スウィフト(真野泰・訳) | 中央公論社(1997/09/25) | \2,600 | 肉屋のジャックの「ラスト・オーダー」、それはちょいと変わっていた。ロンドンから東へ100km、ドーバー海峡に面しかつて妻と行った 保養地マーゲイトの「突堤」から遺骨を撒いてほしいというのだ。かつて北アフリカ戦線で一緒に戦った「ラッキー」レイ、陸軍だが当時面識 はなかった八百屋のレニー、海軍だったお向かいの葬儀屋ヴィック、この69歳の爺さんたちと、養子で中古車ディラーのヴィンスは、売り物 のベンツに乗って出発した。その道中は不穏な様相、しかも飲んだり寄り道したりで、たかだか100キロ無事たどりつけるのか…。75の短い 章から成る物語。それぞれの章は、この同行者4人と、死んだジャックの妻エイミー、ヴィンスの妻マンディ、死んだジャックの7人が語る。とりあえずラッキーだからレイ が一番中心となる。彼はからかいをこめてレイちゃんと呼ばれるほどの小男だが、競馬にはめっぽう強い。保険会社勤めで、昇進を内示されても、給料下がっても勤務時間 が短い方がいいなどというのだ。だが、その私生活はかならずしも幸福ではない。それは皆同じこと。労働者階級、小商店主、若い者を扱えず、 老いては駑馬のごとし。あたかも従軍経験だけが誇りとでもいうように。なにしろ若いヴィンスも兵役志願したりしたのだ。 イギリス庶民というのはまだまだ苦労が絶えないのだなー。(ブッカー賞受賞作) |
| 聖なる夜 | ターハル・ベン=ジェルーン(菊池有子・訳) | 紀伊国屋書店(1996/08/02) | \2,200 | 私の人生は「嘘」で彩られていた。女でありながら相続人をほしがる父のために男装のまま成長した私は父の死とともに家を出た。 私はたちまち本来の性を取り戻し、それゆえの暴力を受け、小さな町の浴場の女に泊めて貰う。女の弟、盲目のコーラン教師コンスュル の世話をすることになる…。「砂の子ども」の続編に位置する。噎せるようなモロッコの香り。とりかへばやな危うさは前作通りですが、断章 の連続にとどまらず物語としてまとまっています。雰囲気も独特の美しさ。 |
| 眠りの兄弟 | ロベルト・シュナイダー(鈴木将史・訳) | 三修社(2001/12/15) | \2,800 | 19世紀初頭、スイスにほど近いオーストリアの高地寒村エッシュベルク。近親婚のせいか住民は奇人ばかりだった。そのなかでどうやら司祭の子
とおぼしき黄色の目のエリアス・アルダーは、ある日とてつもない聴覚に目覚め、すべての自然、ケダモノ、人の声を聞き分け、模倣で
きることに気付く。彼は天性の音楽家だったのだ。彼は村にたった一台のオルガンをあやつるようになる…。 ドイツロマンの再来というか、ホフマン の物語にもありそうなシチュエーション。座敷牢状態のエリアスを支えたのは、従兄弟ペーターの友情とその妹エルスベートへの愛。 それは7歳の時からずっと続いていた。 しかし彼はついに告白できず彼女は農夫の妻となり、彼は教会付きオルガン奏者兼教師となる。ある日フェルトベルクからやってきたゴラーが、 大聖堂で行われるオルガン祭にエリアスを招待、そこで天才的狂気の演奏が行われた。彼は聖歌「おお、死よ、きたれ、汝眠りの同胞(はらから)よ」をテーマ にした即興演奏という課題を引きこなす…。村にフェーンが吹き渡る夜、必ずや何か禍々しいことが起きるのだ!。 |
| 非道、行ずべからず | 松井今朝子 | マガジンハウス(2002/04/18) | \1,900 | 文化六年巳年の元旦はこともあろうに火事で明けた。炎は芝居小屋の市村座をのみ、この中村座も半焼の憂き目にあう。太夫元の勘三郎は、また借財かとため息をつく。 それどころかその焼け跡からなんと行李に詰められた絞殺体が出てきたのだ。その顔はだれも見覚えがないと言い張ったが、オコゼとあだ名される薹の立った女形荻野沢蔵が、 女形大部屋に出入りする担ぎの小間物屋であることを証言。同心笹岡平左衛門、同見習薗部理市郎は探索を始める。 時あたかも、老いてなお矍鑠として亀を放生もせずに飼っていることから「亀の太夫」と陰口をたたかれる老立女形三代目荻野沢之丞の襲名問題も 絡み、文化文政爛熟時代の江戸芝居は幕を開ける…。どいつもこいつも色と欲ボケです。庶民の楽しみと称して自分の楽しみを追求しているだけなのか。しかし、 歴史に残っているからにはそれだけの価値はきっとあったのだな。 |
| 半落ち | 横山秀夫 | 講談社(2002/09/05) | \1,700 | W県警本部教養課次席の梶が妻を殺した。だが、自首まで空白の二日間があった。澄み切った目の梶はそのブランクについては語ろうとせず、 県警のシナリオに従って死に場所を求めてさまよったことにしてしまう。だが、彼が歌舞伎町に行ったとの手がかりがあり、女性関係の疑いも発生する。 それはマスコミには隠さなければ…。しかし漏洩してもなお彼は口をつぐみ続けるのだった…。まあまあ面白い人情ミステリですね。心理劇としてはちょっと先が 見えてしまいますが。 |
| 毒の神託 | ピーター・ディキンスン(浅羽莢子・訳) | 原書房(1998/03/26) | \1,900 | 砂漠にそびえ立つ逆ピラミッド型の宮殿。産油国クカトのスルタンはその財力にものを言わせ、
宮殿内に動物園を造営、シロクマからチンパンジーまでも飼育していた。
その責任者として招聘されたのがオクスフォード留学時代の学友・モリス。
彼は心理言語学者でチンパンジーのダイナに言語を教え、辺境の湿地帯に住む沼族の言葉にも夢中となっていた。
ある日、ハイジャックされた日本機が飛来し、イギリス系女テロリストが闖入しさらにはスルタンの愛人となって…。 いやはや設定と言い、かなりのキワモノと言えるでしょう。しかし、21世紀に通じる建築デザインをはじめ、沼族の言葉を作り上げてしまったり、著者の 造作力はなかなかすごいですね。 |
| すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X | 塩野七生 | 新潮社(2001/12/20) | \3,000 | 「インフラストラクチャー」とは、社会資本あるいは下部構造と訳されるが、ローマ人が作り出した概念である。
ハードなインフラとしての街道・橋・上下水道の建設、ソフトなインフラとしての医療・教育。そこに公と私はどのようにかかわったか。
写真・地図・図版が多くてなかなかよろしい。もっとも軍備安全保障による平和の継続こそインフラの基礎とする前提は、やや本末転倒でおかしいけどね。 強引に現代に結びつけようとしているけど、発想は古代史から抜け出せないようで。 |
| 私たちがやったこと | レベッカ・ブラウン(柴田元幸・訳) | マガジンハウス(2002/09/19) | \1,600 | 「結婚の悦び」「私たちがやったこと」「アニー」「愛の詩」「ナポレオンの死」「よき友」「悲しみ」の7編を収録する短編集。ウェットというよりむしろドライなタッチで、
現代のある状況をデフォルメする。 「結婚の悦び」新婚旅行で田舎にいくと、 突然人々が訪れてくる。どうやら彼の友人たちらしい。そしてポルノ映画が始まる。わたしたちの結婚式とそして二人のからみあう姿…。 実はわたしは好色なのか。 「私たちがやったこと」Folie a Deuxは春琴抄のような話。日本人的感覚とも思われます。 「安全のために」耳を焼いた画家と目をつぶした音楽家のカップル。こうすればすべてうまくいくはずだったのだが…。 「アニー」はウェスタン幻想もの。ウェスタンショーで迫真の演技をこなす女アニーは、実は「ほんもの」の西部女らしい…。 |
| サイレント・ジョー | T.ジェファーソン・パーカー(七搦理美子・訳) | 早川書房(2002/10/15) | \1,900 | まだ赤ん坊のとき、父から顔に硫酸をかけられたジョー。養護施設で暮らしていたところを地方政治家のウィル・トロナに引き取られる。 養父は彼を実子と分け隔てなく育て、彼は「ボス」として忠誠をささげ、昼は保安官補として刑務官業務に就き、夜は政治に伴うかけひきなど ボディガードをしながら地方政治家のあとをつぐ未来が感じられた。だがある日、ウィルの政敵の娘サヴァンナが誘拐され、身代金受け渡しを買って 出たウィルが、ボディガードジョーの目の前で射殺されてしまった…。少年が一人の「グル」と出会い、成長する姿を描く。囚人たちの生態が見もの。 |
| 天国までもう一歩 | アン・ナ(代田亜香子・訳) | 白水社(2002/08/30) | \1,500 | いろんな夢がかなう国「ミグク(アメリカ)」で幸せをつかもうとした韓国移民の一家。だがそこには思いがけない苦しみも待っていた
。全米図書館協会プリンツ賞受賞の感動的ヤングアダルト小説。 4歳のヨンジュは大好きなハルモニと別れ、アパ、オンマと共に渡航する。 彼らの夢を押し潰そうとのしかかる現実。だが、子どもには父の家庭内暴力という形でしか現れてこないのだ。弟ができて生活はさらに苦しい。 父は庭師と弁護士事務所の掃除夫を兼ね、母もまたレストランでやけどだらけの手で働き続けるのだった。それでもアメリカは希望の国。 オンマ、なんの歌?/ ア・メ・リ・カ。/ それ、なに?/ ミグクのこと。/ ミグクは魔法のことば。 |
| 天空への回廊 | 笹本稜平 | 光文社(2002/03/25) | \2,000 | 世界最高峰エベレスト。冬季無酸素単独登頂を達成した日本人登山家真木は、下山途上北西壁に落下した火の玉を目撃、雪崩に巻き込まれる。
なんとか岩塊の陰に隠れやりすごしたが、同時入山の各国登山者には行方不明者が続出した。その落下物はどうやらアメリカの人工衛星、
それも原子炉搭載という極秘物体だった。やがて外交措置が取られ、真木も協力を要請される。行方不明の友人マルク・ジャナンの捜索にもつながることから承諾するが、
展開は次第にきな臭いものになっていく。マルクの妹クロディーヌ・ジャナンとの恋も絡めて描く国際謀略小説。 うーむ、風呂敷広げすぎかな。シンプルに鋭くした方がよかっ たかも。山描写はまあまあだが、リバース・エンジニアリングって逆アセンブルのこと?というようにところどころ引っかかるところが…。 |
| 著者略歴 | ジョン・コラピント(横山啓明・訳) | 早川書房(2002/03/31) | \1800 | ぼくキャル・カニングハムはアルバイトで書店につとめながら作家を目指していた。ルームメイトでコロンビア大ロースクール一年の スチュワート・チャーチとは互いにプライバシーを尊重しあえる仲だと思っていた。スチュワートが事故死した。彼は「傑作」を残していた。 それはぼくをモデルにした小説だった。 つまり、それはぼくのものと言って差し支えないのだ…。ブック系サスペンスだけど、宣伝文句ほどユニークでもないような気がいたします。 |
| 家 | 巴金(飯塚朗・訳) | 岩波文庫(1991/04/16) | \980 | 1919年、五四運動下の中国、四川省の古都成都の名家・高家でも「家」の崩壊が始まろうとしていた。あくまでも頑固な祖父大老爺のもと、20歳のときに
父を亡くしたため早くに跡継ぎとされ、新旧思想の狭間で苦しむ長兄覚新、要領よく生きようとする次兄覚民、急進的新思想に同調し、ひそかに小間使い鳴鳳
を愛する末弟覚慧。しかし鳳は、老人の妾に売られることに絶望し、庭園の池に入水する…。がんじがらめの旧大家が直面した近代を、若者たちがそれぞれ
新時代をめざす姿で描く名作。
描写や台詞回しはやや古めかしいけど、とりあえず記念碑ですから。 |
| 家なき鳥 | グロリア・ウィーラン(代田亜香子・訳) | 白水社(2001/12/15) | \1,500 | あたしはコリー。13歳でハリに嫁ぐことになった。ところがそれは、あたしの持参金で病気のハリがバラナシのガンガーに行く費用を作るためだったのだ…。
ヤングアダルトなのですがインドの貧困と底にある実体を描きます。それでも主人公は明るいので救われます。 |
| クロニカ-太陽と死者の記録 | 粕谷知世 | 新潮社(2001/12/20) | \1,700 | 太陽の都クスコ。大インカはここに君臨し、全世界に号令していた。文字を持たぬ彼らはその呪縛に陥ることなく、伝達吏が街道を走り抜けて勅令を伝え、
歴史はまた死者が語ることで伝えられた。そう、彼らは木乃伊となった先祖たちと自由に会話することができたのである。そして「文字」を持つ白人たちの神がつ
いにやってくる。インカも滅び支配体制が固まった頃、ムナスコ村に教会の巡察使がやってくるという。アマルは祖母のチャカラに伴われ、本来の村の墓地におもむく。
そこには村を開いた「ご太祖」ワマンからつい先頃死んだアマルの兄リャクタにいたる何代にもわたる木乃伊群が安置されていた。そして、コカの葉でいぶされ、
目覚めた死者は語り始める…。 第13回ファンタジーノベル大賞受賞作。歴史を語るに死者をもってせよ。 小説としてはいまいちだなー。太祖の友人、アマルとサラが光らない。とくにサラは隼にさらわれてすぐ退場するしさー。 |
| 妖櫻忌 | 篠田節子 | 角川書店(2001/11/30) | \1,400 | 平安王朝を舞台に華麗な恋愛劇を描いた小説家大原鳳月が急死した。茶室で新進演出家と抱き合うようにして焼死したのだ。その死後、彼女の創作に
深く関わっていた秘書若桑律子がアテナ書房の堀口に手記とも小説ともつかぬものを持ち込む。彼女は、膨大な遺産を受け取ることになったが、鳳月は事実
上枯渇状態で、ほとんどが自分の作だったという。 編集者内幕怪奇ものですなー。女の情念ですなー。怖いけど、無縁という感じですなー。 |
| 人骨展示館 | 又吉栄喜 | 文藝春秋(2002/06/30) | \1,667 | 那覇から北に60kmG村のグスク跡から12世紀のものと思われる若い女性の人骨が発掘された。予備校講師もやめてプー状態だった古堅明哲は、 なんとなくその骨を見に行き、役場の発掘担当海部琴乃に会う。そして民宿の宮城将信、出戻りの小夜子に包まれて、いつのまにやら巻き込まれ…。 いつものユーモアぶりが懐かしいです。 |
| 診断 | アラン・ライトマン(高瀬素子・訳) | 早川書房(2002/05/31) | \2,600 | ボストンの情報提供会社ジュニア・パートナーとして順調に歩んでいた40歳のビル・チャーマーズはある夏の朝、地下鉄車内で突然自分の会社名も 下車駅もやがては自分の名前さえ脳内から失われたことに気づく。息子のビル14歳との会話はEメールだけ、妻は次第に酒浸り、医者は検査漬けでなかなか 診断を下さない。原因不明のまま麻痺は手から全身へと進行し、ついに会社から放逐される。過労社会・現代の悲劇ですが、これはもう、身につまされすぎ。部長がちょうど脳梗塞で 出勤途上に倒れかけたこともありって仙台弁で言えば「おどけでねえ」のです。 |
| 二人の死者のためのマズルカ | カミロ・ホセ・セラ(有本紀明・訳) | 講談社(1998/02/05) | \2,300 | ガリシアはスペイン北西部、巡礼地として知られるサンチアゴ・デ・コンポステーラを州都とする、著者カミロの出身地である。スペイン内乱時にここでおきた事件をもとに、 出征中のカミロが、村に帰って聞き書きを行う。複雑な繰り返し構造でなかなかわかりにくい。エピソードひとつひとつ、キャラひとりひとりが次第にあぶりだされてはい くのだが…。 |
| ヴェネツィアの薔薇 | M.ロヴリック&M.バーリア(富士川義之・訳) | 集英社(2002/01/30) | \1,500 | 19世紀に生きた万能の天才、ラファエル前派の庇護者として名高いラスキンはわずか10歳の少女ローズに恋をしていた。17年間の苦悩の悲恋だった。精神を侵された ローズの死後、ヴェネツィアにわたったラスキンは、そこで15世紀に描かれたカルパッチョの連作絵画に出会う。それはローズの化身との再会でもあった…。 |
| 天球の調べ | エリザベス・レッドファーン(山本やよい・訳) | 新潮社(2002/10/30) | \2,500 | フランス革命勃発後すでに6年、1795年ここロンドンでは王政復古をめざす亡命貴族やそれを阻止しようとする共和派のスパイが暗躍し、イギリスの思惑も絡んで
暗闘が繰り広げられていた。そんななかで赤毛の年若い娼婦だけが殺される連続殺人事件が発生、内務省の高官ジョナサンは家出した娘が殺されていたことから
自ら事件解決に乗り出そうとする。事件には天文学上の発見が絡んでいることから、天文観察を趣味とする同性愛者の兄に助けを求める。 前半は必要以上に連続殺人にこ だわり、下手人みえみえなのにもたつき、後半もなんだか同性愛だのセックスまでからんではちゃめちゃしてきたみたい。フランス革命に干渉しようとするイギリス と亡命貴族という設定で、書きようによってはすごく面白くも作れそうなのに、惜しいことです。 |
| ぼくは行くよ | ジャン・エシュノーズ(青木真紀子・訳) | 集英社(2002/03/31) | \1,700 | パリに住む美術商フェリックス・フェレールは漁色家。離婚調停中ではあるがとにかく女性なしで過ごすことは珍しい。商売は不景気のせいもあり一進一退だが アシスタントのドラエの情報で、北極圏に1957年に座礁したまま放置されたカナダの商船があることがもたらされる。そこにはイヌイットなどのエスニックアートが 山と積まれたままだという。ゴンクール賞 作品だそうだけど、つねに女性を賛美するフェレールがちらちらしてなんだか軽かったな。勝手に行けば、って感じかな。それにしてもアロマティック・エリクシールってどんな香りだろう。 |
| 棹歌 | 吉野光 | 講談社(2001/12/07) | \2,300 | 戦争が終わって十余年、私は信州から東京大学に入学し、食料品店を営む叔父の家に下宿した。私が追い求めていたのは、
赤倉まり子だった。疎開の時に知り合い、またときに都会で傷ついたときに羽根をいやすように信州に来ていた3つ年上の彼女。
もともと粋筋の流れで彼女は新橋で曖昧宿の女将だという。まあ、なんつーか。おやじ回顧的恋愛小説で、
エピグラフの漢武帝の「秋風辞」が一番よかったかも。 佳人を懐いて 忘るる能わず/ 楼船をうかべて 汾河を済(わた)り/ 中流に横たわりて 素波を揚ぐ/ 簫鼓鳴りて 棹歌(とうか)発し/ 歓楽極まりて 哀情多し |
| カモ少年と謎のペンフレンド | ダニエル・ペナック(中井珠子・訳) | 白水社(2002/05/05) | \1,400 | カモはパリに住む中学生。お父さんはいないがお母さんは10カ国語に堪能。それなのにカモは英語ができない。お母さんはある日ペンフレンドのリスト を持ってくる。イギリスのペンフレンドと文通して、3ヶ月で英語をマスターしろと言うのだ。反発したカモはむちゃくちゃな手紙をだすが、帰ってきた返事にカモ は驚く。なぜならそれは18世紀を思わせる…でも謎は簡単でよろしいです。 |
| オンリー・フォワード | M.M.スミス(嶋田洋一・訳) | ソニー・マガジンズ(2001/07/19) | \2,000 | P・K・ディック賞を受賞したマイケル・マーシャル・スミスの処女長編。「近隣区」という発想がユニークですね。究極のオタク社会かな。<猫>がいかにも猫好きの 著者らしいし、 しゃべる機械などの小道具にも笑ってしまう。でもいっそばりばりのアクションSFにすればいいのに、後半はまとまりを失ってよくわからなくなりました。 |
| マスク | 堂場瞬一 | 集英社(2002/04/30) | \1,800 | 25年前、単身メキシコに渡り、マット界の寵児となったマスクマン、ルチャドールが死んだ。スポーツライターの「私」は その足跡をたどる取材の旅に出る。なぜなら、そのルチャドール、エル・ソル水野忠良こそは、私と母を捨ててメキシコのレスリング を選んだ父だったからだ…。設定はややご都合的ですが、まあまあ読めます。 |
| 蜜蜂職人 | マクサンス・フェルミーヌ(田中倫郎・訳) | 角川書店(2002/11/30) | \1,400 | オーレリアン・ロシュフォールの 祖父レオポルドはラベンダー業者だった。1885年、オーレリアンは20歳となり、蜜蜂のことを夢見始めた。だが蜂蜜はろくなものじゃない。一時は富を得たロシュフォールは 落雷でいっさいを失ったとき、 夢を見た。それはアフリカの夢。彼は黄金探求者としてアフリカに渡り、3年の間アビシニアをさすらい、たったひとりの女と出会った。その瞬間、彼は故郷のポーリーヌを 忘れてしまった。故郷の自分の目の前にいた黄金を…。寓話的・詩的な物語であります。 |
| この素晴らしき世界 | ペトル・ヤルホフスキー(千野栄一・千野花江・保川亜矢子・訳) | 集英社(2002/06/30) | \1,900 | 1943年、ナチスドイツに保護占領されたチェコの小さな町での出来事。ヨゼフとマリアの子のない夫婦は、ユダヤ青年ダヴィドを隠し部屋にかくまうことになった。 ヨゼフの同僚にして隣人のドイツ系ホルスト・プロハスカはマリアに気があり、何かと口実をつけては訪れるのだ。そのすれ違いは一歩間違えばチャップリン的ドタバタ になりかねないブラックユーモアとも言える。さらにはおいおい、そりゃー行き過ぎぢゃないのかというような展開に。しかしこれが「ボヘミアン」の生き方なのだ。 ユダヤ人を追い出した後に入居したドイツ人の上司ドクター・ケプケの自慢の三人の息子が次々と戦死していく。その悲哀さえも、笑わずにはいられない。 そして生き延びるための手だてさえ、皮肉にして現実的。この島国では想像すらできぬだろう。 |
| 越境 | パット・バーカー(高儀進・訳) | 白水社(2002/09/15) | \2,200 | イングランド北部ニューカッスルに住む児童心理学者で臨床も行うトム・シーモアは、妻ローレンと歩きながら悲観的な結婚生活について話していた。 そのとき彼は一人の青年が川に飛び込んで沈むのを目撃し、革に飛び込んで救助する。それは、13年前、当時10歳にして老女を殺害したとされて収監されたダニー・ ミラーだった。トムはダニー少年を善悪判断能力を備えていたと鑑定証言し、有罪が確定したのだ。この再会は、単なる偶然だったのか。 EDによる結婚生活の破綻を目前にした心理学者と、 イアン・ウィルキンソンという新しい身分を獲得して再生しようとするダニー。そのふたりの 境界は次第に交錯していく…。しかし、どっちかに絞った方がよかったかもー。子供の話は片手間はいかんと思ひます。ミステリとしてはちょっと弱いしね。 |
| どろぼうの神さま | コルネーリア・フンケ(細井直子・訳) | WAVE出版(2002/05/01) | \1,800 | ヴェネツィアは海に浮かぶ歴史の町。映画館の廃墟に少年少女たちがひっそりと暮らしていた。リーダーとなっているのは「どろぼうの神さま」
こといつも鳥仮面を外さない謎の少年スキピオ。おばさん夫妻にひきとられるのをいやがって、ハンブルクからヴェネツィアまで逃げてきたまじめな兄
プロスパーとその天使のような弟ボーはひょんなことから彼らと暮らすことになる。彼らの取引先、故買屋バルバロッサがとんでもない仕事を持ち込んだことから…。
「ピカレスク」とまでは行かないけど、展開は面白い。たぶん読書好きの児童ならわくわくかな。オトナにはやや物足りないっす。 |
| イースターエッグに降る雪 | ジュディ・バドニッツ(木村ふみえ・訳) | DHC(2002/09/28) | \2,000 | 一年のうち9ヶ月が雪に埋もれ、3か月は泥にまみれる過酷な自然の村。因習と民話に支配された村からイラーナは15歳で町をめざす。弟アリ は熊同然の野生児だった。イラーナが巡り会うのは、とらわれの少女を操る産婆、次々と夫を死なせる女流画家。そして彼女は旅芸人シュミエルとともに 黄金の国をめざす…。ブラッドベリ から暖かさを抜いたような残酷な幻想もユニークでした。しかし男はみんな不幸な最期つーか消えてしまったりするのもしばしばで、みんなどこ行った んでしょうねー。しかしとんでもないお話を見つけ出してくるもんだ、DHC。 |
| 種まく子供たち−小児ガンを体験した七人の物語 | 佐藤律子・編 | ポプラ社(2001/04/01) | \1,300 | 「小児ガン」とは一般に15歳までに発症したガンを言い、その進行は早く予後不良となることが多かった。しかし、早期発見早期治療により緩解ある いは治癒に至ることも現在では希ではなく、治癒率7割とも言われている。ここでは、7人の子どもたちがそれぞれ病と死に直面し、どのように悩み苦し んだか、そのとき父母と医師はどう考え、どのようにサポートできたかを記録する。おなじ苦しみを抱えた子供、家庭への情報提供や力づけになることを 願って。それにしてもなかなか大変な人生ですね。うちはバカでも病気せんだけいいのか。おっと不謹慎でした…けど、読者の大半はそんな感想だったりして。 |
| 薛馬姑娘 | 高纓(GaoYing)(田中須磨子・王敏・訳) | インターワーク(2002/01/15) | \1,500 | 薛馬(実際は王へんのついた馬)は漢民族の父とチベット族の母の間に生まれた。正式な結婚ではなかっただけに文革の中で父は批判にさらされ、つ いに自殺した。しかし彼女は力強く育ち、ついに冬虫夏草など薬材の仕入れ会社を設立し、商売に成功する。やがて草原研究所の研究員鐘雲矯に恋をす るが、彼は成都の知識人階級だった…。表題作はじめ、四川蜀花大学同級生の30年後の再会を描く「白い菊の花」、蒙古族の娘に恋をしたために八路軍に 身を投じた若者の話「あお・りい・ま」を収録。庶民の間ではいまなお厳しい民族間・階級間の対立反発が暴かれます。 |
| 今池電波聖ゴミマリア | 町井登志夫 | 角川春樹事務所(2001/12/08) | \1,900 | 2025年、日本は荒廃の極にあった。そうした中、高校生が暴力を手にして社会を支配しようとする…。素材も消化不良的ですね。どうもコミックでみたことがあるような…。 |
| スロー・グッドバイ | 石田衣良 | 集英社(2002/05/30) | \1,500 | 「泣かない」「十五分」「You look good to me」「フリフリ」「真珠のコップ」「夢のキャッチャー」「ローマンホリデー」「ハートレス」「線のよろこび」「スロー グッドバイ」10編のトレンディドラマのような「都会的」恋愛小説。しかし、何が書いてあるか読むそばからすぐ忘れるくらいからっぽな世界。あたまもこころも。はあ〜 ダサイよ、あんたら。粋なつもりなんだろうけど。 |
| ブラック・マジック | 大岡玲 | 文芸春秋(2002/01/30) | \2,000 | サイエンスライターでTVのコメンテーターでもある貴島は、ジネティック・ハーヴェスト・インターナショナル日本支社の取材を行い、支社長の原田に引きつけ られ、さらに広報担当の小峰佐和子と恋人となる。新興宗教と自然食品の合体したツシマ・コズミック・コーポレーションとのつながりをたどると、天才遺伝子学者森 川の秘密が浮かび上がる。はたして究極の「不老長寿」は可能か…。うーん、ちょっとみんなステレオキャラですね。これもSFと言っていいのかね。 |
| 爆破屋 | 原 宏一 | 小学館(2002/01/01) | \1,500 | 雅也と麻由美のなりゆき夫婦の父、小野寺金物店の主人が急死した。どこにでもあるさびれかけた辛島商店街の店は、人手にわたりそうになる。ヤバくなってあたしたち はアメリカに逃げ出し、元GI工兵ボブじいと知り合って爆破屋になった…。軽いノリで読ませるつもりがちょっと軽すぎになってリアリティを失ったかな。 |
| 小説ハッシュ! | 橋口亮輔 | アーティストハウス(2002/05/09) | \1,200 | 直也、朝子、勝裕、ふたりのゲイと「サセコ」の評判がつきまとう朝子の出会いと奇妙な三人組の友情。朝子は父親になれる目をしている勝裕に とある話をもちかけ、ひそかに彼を慕っていたエミを泣かす。そうねー、ほしいのは安直な連帯感なんだー。でも映画は評判いいようで。 |
| 窓からの眺め | ケリー・サカモト(小泉摩耶・訳) | DHC(2002/05/25) | \1,800 | 1970年代のカナダ。日系2世で30代のアサコは寝たきりの父の世話が中心で、大好きだった兄の記憶に浸り混む生活を送っていた。ある日親 しくしていた日系人一家が殺人事件に巻き込まれた。単調な生活を続けていたアサコは、事件をきっかけに、強制収容所時代の記憶を呼び覚ます…。 第二次大戦中強制収容され、戦後もその影をひきずるカナダ人女性の姿を描く99年度英連邦作家賞等受賞作。時折混じる「日本語」が唐突ですが、 淡々と描かれる日常は一種「日本的」ですらある。でも雰囲気 がかなり物寂しいのよねー。 |
| 石のハート | レナーテ・ドレスタイン(長山さき・訳) | 新潮社(2002/04/25) | \1,800 | 5人兄弟と父母の崩壊した家庭。一家無理心中の生き残りとうしろ指さされつつ、エレンは12歳のあの日何が起きたかを思い出さずにはいられない。 精神的に次第に追いつめられていく母。無関心を装うことしかできない父。そして彼女は、父も母も苦しんでいたことを知る…。シリアスでいい話なのですが、どうにも後味が 悪くて。まあ、個人的なものでしょうけど。 |
| 木島日記 乞丐相 | 大塚英志 | 角川書店(2001/11/10) | \1,200 | 民俗学大御所折口信夫博士の周辺に次々おこる怪事件。始末をつけるのは陸軍とも関係深い瀬条機関の木島平八郎と土玉氏。探偵小説としてもごくごく浅いねー。 コミックとの連携というのも期待はずれだし、設定の割にはエログロ度が希薄すぎます。体験だけで書こうとしてはいけません。 |