| タイトル | 著者名 | 発行 | 価格 | 内容・短評 |
|---|---|---|---|---|
| 黒い蜘蛛 | ゴットヘルフ | 岩波文庫(1995/05/16) | \460 | 初孫の洗礼の日、招待客から新築の家なのに柱に汚い黒い木が使われている理由を問われた祖父は、ここだけの話とエメンタール に伝わる古い伝説を語り始める。中世の頃、ドイツの騎士団のコムトゥールに支配され、搾取されていた農民たちは、領主の無理難題を解決 するために、取ってはならぬ方法を取ったのだった…。山深い里の民話に材を得た鬼気迫る物語。 |
| ソーネチカ | リュドミラ・ウリツカヤ | 新潮社 | ¥1600 | ソーネチカは7歳から27歳までのべつ幕なしに読書に没頭していた。図書館専門学校から司書となったのはまさに天職というべきか。
1941年、開戦に伴い機械工の父とともにウラルの工業都市に移り、そこの図書館で伴侶となる運命のロベルト・ヴィクトロヴィチと出会う。芸術家であった彼は、
前大戦中はパリにいて、アポリネールなど有名な文人たちとも交流したという。その話を聞くだけで彼女はわくわくするのだった。ソーネチカとロベルトはまもなく
結婚し、一人娘ターニャを得る。ソーネチカはつぶやくのだった。「いいのかしら、こんなに幸せで」
そしてターニャが成長し、その友人、 孤児のヤーシャが家に遊びに来たことで、新たな局面が展開する…。 これはまた男にとってはありがたい極みのような「お人好しのユダヤ女」でありますね。でもここまで行くと、こんな女が近くにいたらだんだんイライラして どこまでもいぢめてしまいそうでもあったりして。おっといかんいかん。 |
| ある放浪者の半生 | V.S.ナイポール | 岩波書店(2002) | \2,500 | 「僕のミドルネームは、なんでサマセットっていうの?」ウィリー・チャンドランは父に尋ねた。「偉大なイギリスの作家から貰ったんだ」と父は答えた。マハトマに認めて貰いたくて自己犠牲の心から被差別階級「後進民」の女性と結婚し、沈黙の誓約無言の行者として虚名を得ていた父をある日その作家が訪ねたという。父母にはやがてウィリーと妹サロジニができるが、当然譲るべき富もない。
「後進民」の血を引く彼らを受け入れてくれるのはミッションスクールのみ。こうしてウィリーは海外への憧れを抱く…。 父の生き方を描く「サマセット・モームの訪問」、ロンドンのあまり知られていないカレッジに留学を果たし、BBCで小遣い稼ぎをしつつ小説に手を染める「第一章」、知り合った女子学生とともにポルトガル領アフリカの農園屋敷に住むことになる「再訳」の三部構成から成る。 虚飾と創作の紙一重の生活で、どうも煮え切らないような気がするなあ。 |
| 嫌われ松子の一生 | 山田宗樹 | 幻冬舎(2003) | \1,600 | 九州から上京した19歳の大学生・川尻笙はガールフレンドの明日香と部屋にいると突然父の訪問を受け、三十年以上前に失踪した伯母松子が最近東京で殺害され、警察から連絡があったと知らされる。笙は美人で教育も受けた松子の転落の生涯をたどり、愛を求めて放浪したその人生に打たれる…。 全編これ浪花節というかどこかで聞いた物語のつなぎ合わせというか。苦界に身を沈め、シャブに手を出し、やくざにヒモられ、いやはや、今時こんなん読むのか? つけあわせの若者たちもとってつけたようだぜ。 |
| 愛のゆくえ | リチャード・ブローティガン | 早川epi文庫(2002) | \680 | ここは人々が一番大切な思いを綴った本だけを保管する「完全で美しい」図書館だ。わたしはもう3年も外に出ることなく24時間ここで
管理人として待機している。人々はいつやってくるかわからないからだ。そんなわたしにも恋人ができた。そしてなんと彼女が妊娠してしまったのだ。
考えられる道はたったひとつ…。 メキシコに渡っての人工妊娠中絶という「負担」をさりげなく淡々と書いてしまっている。その残酷さも余すことなく、 あえて肯定も否定もせずに。 しかしさ、現代人としてはとまどいがあるなー。 |
| ラムラム王 | 武井武雄 | 銀貨社(1997) | \1,500 | フンヌエスト・ガーマネスト・エコエコ・ズンダラー・ラムラム王は、エッペ国の珊瑚削り職人の子、王様じゃないけど名前の中に「王」があるのは仕方がない。 しかし彼は7歳のころからなんと変身の術を身につけていた。五回王位について一度奴隷となる運命の子、彼は自分の運命を探しに「うまれがい」を探しに西へと 旅立つのだった。日本児童文学史上屈指の傑作ですなー。 |
| 天涯の船 (上下) | 玉岡かおる | 新潮社(2003) | \3,300 | 明治17年、九鬼隆一文部少輔が駐米公使に赴任する船「シティー・オブ・ペキン」に留学生の一団が乗船していた。それは士族の男子ばかりではなく、
女性も混じっていた。旧姫路藩士酒井家の一人娘三佐緒は兄数馬とともに政略結婚の道具となる教育をうけるべく、渡航する。しかし、そのミサオは実の名
を西波あやねと言った…。
千と千尋ではないが、名前を捨てた女の子の物語です。カワウソ殿こと桜賀光次郎は大臣の息子で、後の川崎造船の社長である。もちろんこれは 松方コレクションを題材としたモデルものなのだ。しかしこういう権威好きなところは浅田次郎の柳の下ねらいだなー。お話自体はなかなか面白いのですけど。 |
| ビリッヒ博士の最期 | リヒャルト・ ヒュルゼンベック |
未知谷(2003) | \2,000 | 第一次大戦中のベルリン、三文法学博士ヴァルター・ビリッヒは安下宿に住んで某社の法律顧問で糊口をしのいでいた。 友人の馬主カリウス博士の昔の恋人、マーゴットに紹介されたことから人生は急展開する。 戦争を私利私欲の食い物にしようとする連中の上前をはねようと言う計画に首をつっこむのだ。 しかしそれはマーゴットをとりまく悪党どものワルプルギスの夜に身を投じることであった。 |
| 絹扇 | 津村節子 | 岩波書店(2003) | \1,900 | 明治中期、福井県春江村では機業導入がはかられていた。従来の地機(じはた)に加え、飛び杼のバッタン機が導入されたのだ。
長女のちよは学校にも通わず「手伝い」というよりはむしろ糸くりの主戦力だ。年が過ぎてから少し学校に行かせて貰ったがなじめない。
年頃になって、なんと学士の西山順二が新家アラヤを起こすに当たって嫁に欲しいと言いだしたのだ…。
女のシアワセとは何であるか。…と大上段ではなくて、福井の機織りの物語です。やや「おしん」的でもあったりして。 |
| サイラス・マーナー | ジョージ・エリオット | 岩波文庫(1998) | \660 | 信じ切っていた友に裏切られ婚約者を奪われた織工サイラスは石坑の村に流れ守銭奴のようにしてひたすらリンネルを織っていた。
稼いだお金はこっそりと床下にしまい、それを数えるのが唯一の楽しみ。しかしある夜、ちょっとした隙にその金を盗まれてしまう。絶望の
淵にあった彼が、ある日床にうごめく金色のものをみつけ、なくした金と駆け寄ってみれば、愛らしい金髪の幼児の無邪気な姿だった…。
これはまたクラシックですなというしかない勧善懲悪なのですけど、たまにはシンプルなのもいいかな。 |
| 終わりの始まり ローマ人の物語 ]T |
塩野七生 | 新潮社(2002) | \2,800 | ローマ帝国の衰亡は、五賢帝の最後、哲人皇帝マルクス・アウレリウスにその因を発する。
映画『グラディエイター』のモデルともなった戦地ゲルマニアでの病死の謎。しかも息子である次期皇帝コモドゥスは享楽と猜疑の人間だった…。
どうあがいても、後知恵でしかないこともあるのですねー。 |
| ギャスケル短編集 | エリザベス・ギャスケル | 岩波文庫(2000) | \700 | ディケンズをも驚嘆させた天成のストーリーテラー、ヴィクトリア朝のシェヘラザードと呼ばれた短編の名手の作品集。 「ジョン・ミドルトンの心」「婆やの話」「異父兄弟」「墓掘り男が見た英雄」「家庭の苦労」「ベン・モーファの泉」「リジー・リー」「終わりよければ」 の8編を収録。19世紀前半市井人の生活を活写する。 |
| 蜘蛛女のキス | マヌエル・プイグ | 集英社(1983) | \1,800 | 政治犯バレンティンの同房者は、ゲイで未成年に対する猥褻という破廉恥犯のモリーナだった。モリーナは、
仮釈放と引き替えにバレンティンをスパイすることを所長に約束する。しかし精神的には完全な「女性」であるモリーナは
、しだいにバレンティンに惹かれて行く。極端な状況下、「他人に尽くす」とはどういうことかを語り尽くす現代恋愛小説の名作。
まあ、これはもうあまりにも有名な作品なので何も申す必要はないでしょう。(逃げてどうするっ。)ま、「映画を語る」作品だけに、 映画のほうが素直に入れたようにも思えますね。 |
| プレイ ―獲物― (上下) | マイケル・クライトン | 早川書房(2003) | \3000 | 失業中の「専業主夫」コンピュータプログラマーのジャック・フォアマンは、ナノテク関連開発企業ザイモスに勤める妻・ジュリアの様子が
おかしいことに気付く。また、まだ赤ん坊の末娘アマンダが謎の発熱症状を起こしMRIで検査したところ突然回復した。やがてジャックは、
かつて自分の開発したプログラムを採用したザイモスにトラブルが発生したことで支援を要請された。虎穴に飛び込むつもりで彼はネヴァダのテストプラントに向かった。
そこで彼が見たものとは…。 もちろん映画化前提の作品です。例によって技術説明は丁寧ですが、まあ、アイディアはそれほど斬新とは思えませんね。SFXでどうごまかすか、でしょうが、 下手に作ると赤字になるかもよ。 |
| 路面電車 | クロード・シモン | 白水社(2003) | \2000 | 運転手席は怪しげな英語混じりのフランス語で「Wattman」と記され、その周辺は煙草を吸うことを許されて、しかも二三人の小学生は邪魔をしないという
条件で運転台に立ったままで許されて…。
TRANSIT・1というERの表示がそうさせたのか、急病で病院にかつぎこまれたわたしの意識は、ストレッチャーの上で、子どものころしばらく住んでいた
浜辺の町ペルピニャンをさまよう。 病の中での現在と過去の混在・混濁。ふと思い出される母の死と投影される「死」の姿。それはむしろ「過去」が「現在」を呼んでいるのかもしれない。 |
| コレクター蒐集 | ティボール・フィッシャー | 東京創元社(2003) | \1,500 | 骨董鑑定人ローザは、26歳になりながら愛情生活という点ではお寒いものだった。そこに転がり込んできたのはシュメールの「本物以上の」碗とでたらめ宿無しのニキ。 しかもこの碗たるや劫を経て、百鬼夜行となったのか、今まで自分を集めてきたコレクターという人間を観察分類し、「蒐集」しているというとんでもない奴だった。ローザの人生、こいつらのおかげだけではないが、波あり谷ありどうなるのか。 いやーすんません。頻発する「わかるでしょ」という言葉が嫌いなもんで。ただそれだけで点数低いです。わたくしと絶交したい方は、意味ありげ(なさげでも可)に「わかるでしょ」「わかるやろ」と言うてくださればそれで済みます。 |
| リタ・ヘイワースの背信 | マヌエル・プイグ | 国書刊行会(1980) | \2,800 | 1933から1948にかけてののブエノス・アイレスが舞台。ひとりの男の子が生まれ、成長する過程を、シナリオ風対話、独白や手紙文などさまざまな形式で追う。同居している従兄エクトルは名うての不良少年で、早熟であった。 トートは小さいときからかわいいばかりで、耳学問ばかり発達し、従兄にあこがれるものの、実は映画や音楽に心惹かれている。 実は父も子どもたちもみんなアメリカ映画が大好きで、アルゼンチンもきっとアメリカのような豊かな国になるのだと、そんな青春が送れるものだと思っていた…。 ナチスの亡命先として選ばれた国の歪みを背景に、猥雑な首都に暮らす人々の姿を描く。 いかにも映画的な『蜘蛛女のキス』よりも、小説的であると思います。「恋愛度」は低いけど。 |
| 約束の地 | 平谷美樹 | 角川春樹事務所(2003) | \2,100 |
スランこと新城邦明は、「約束の地」を探そうとしていた。特殊能力サイキック、それは所詮疎外されるもの。
フリーライター高木琢己はかつてサイキックたちの記事をかいたことがある。その縁で邦明に接触を受け、他の超能力者と連絡をとろうとする。
平凡な主婦、おがみや、ホームレス…。しかし、一方では国家権力と結びつこうとする動きもあった。 作り方としては(「人間以上」+「邪宗門」)/4くらいかな。こじこじ理論を述べ立てながら、とつぜん素人は理論に走るなどと言い出されては困りますけど。でもまあまあ読めるSFです。 しかしこのじじいたちのかっこよさは、のすたるじじいの類だな。 |
| オリエント急行戦線異状なし | マグナス・ミルズ | DHC(2003) | \1,700 | 題名からして人を食ってますねー。しかし原題からして"All Quiet on the Orient Express"なので確信犯です。
オリエントまでバイクで放浪の旅に行くつもりでいた青年がキャンプ場のお手伝いをしなきゃならんしいろいろ事件は起きるし、
どうしても出発できないのです。 安部公房『砂の女』にサキと宮澤賢治を加えてお笑いに仕上げた風味、しかもそれほど深刻にはならないのでさくさくっと進みます。 まあ、読書欲減退したときの気分転換にはいいですね。ふーん、しかしこれも才能なのか? |
| 影をなくした男 | シャミッソー | 岩波文庫(1985) | \360 | 「影をゆずってはいただけませんか?」謎の灰色服の男に乞われるまま、ついふらふらとシュレミールは「幸運の金袋」と引き替えに影をくるくると巻かれ取られてしまった。それは金貨を果てしなく生み出す魔法の袋。大金持ちにはなったものの光ある中に出られなくなった彼は、世間の仕打ちに耐え、やがて恋をするのだが…。 運命の皮肉さ、残酷さをメルヘンタッチで描くロマン派の傑作中編。 |
| ヘヴン・アイズ | デイヴィッド・アーモンド | 河出書房新社(2003) | \1,500 | ホワイト・ゲートは親のいない子どもたちのための施設。責任者のモーリーンはいつもあたしたちのことを「傷のある子ども」と呼んでいる。 愛したくて信じたくてたまらないくせに、あたしたちをこわれものみたいに扱うばかり。でも確かに変なやつもいるのだ。あたしたちはそれでときどき脱走する。親友の ジャニュアリー・カーがこっそりドア板を3枚打ち付けただけの筏をこさえ、川を下って二人で脱走しようとしたら、よりによってドジな「マウス」に見つかり強引に仲間に加わった。 やがて筏は真っ黒な泥が広がる「ブラック・ミドゥン」に流れ着く。そこは一種のゴーストタウン、 ヘドロが堆積し、見捨てられた倉庫や古い荷揚場の廃墟。そこにあらわれたのが「ヘヴン・アイズ」水かきを持つ少女だった。そして彼女を拾って育てていた「グランパ」。 彼らはふたりきりで暮らし、泥を掘って暮らしていた。そこにはたくさんの「秘密」が埋まっていた…。うーん、期待のアーモンド新作なんだけど、金原節強すぎか。 |
| ドローへの愛 | トーマス・グラヴィニチ | 河出書房新社(2003) | \2,400 | 1910年、ウィーンのチェスマスター、若きカール・ハフナーは世界チャンピオン、エマヌエル・ラスカーと十番勝負のタイトルマッチを行った。 カールは絶妙のディフェンスの名手、しかしなぜかドローが多い。ドローはルール上の持将棋ではなく、相互の話し合いで決定する。 それは彼の「やさしさ」なのか。彼と彼の父の生涯を追いながら、カールのチェスに対する「喜び」が伝わってくる物語。 しかし、パトロンにたかれない性格の彼は大戦中ほとんど無収入となり、餓死同然の最期をとげたという。 |
| 別れのワルツ | ミラン・クンデラ | 集英社(1993) | \2,000 | 妊娠、それは女性の権利であり、武器ですらある。高名なトランペット奏者クリーマは、演奏先の温泉保養地で看護婦のルージェナと関係を持ってしまった。 そして彼女は妊娠したというのだ。その保養地は不妊治療で有名な土地。「産めよ増やせよ」が国是であった時代、 そのアイロニーに満ちたブラックユーモアが展開する。 そして愛には苦い別れがつきもので…。とは言うもののこれはユーモアなのか社会主義に対するアイロニーなのか、とまどう読者も多いのでは。 それからこの完全犯罪はどこかで見た記憶もあるけど、どっちが先なんだろう。 |
| セルバンテス短篇集 | ミゲル・デ・セルバンテス | 岩波文庫(1988) | \620 | 「やきもちやきのエストレマドゥーラ人」「愚かな物好きの話」「ガラスの学士」「麗しき皿洗い娘」の4編を収録。嫉妬や偏愛など愛の諸相を 当時の風俗を交えて描く作品集。なにより読んで面白いのがいいですね。時間があったられびゅーしたかったかも。 |
| カフカ寓話集 | フランツ・カフカ | 岩波文庫(1998) | \560 | 文庫で気軽に近づける池内訳カフカの2冊目。「寓話集」というけど、寓意を託した物語を集めたという意味ではなく、 訳者が「短編集」と区別するために名付けたにすぎない。「貂」や「巣穴」のように、たぶんおそらくもしかすると動物らしきものを主人公にしたものにしても、 イソップあたりとは比較できないのは当然ですな。「アレクサンドロス大王」などごく短いものはアフォリズムに近く、 「断食芸人」など名高いものも含まれます。これも時間があればレビューしたほうがいいのかも、と言いつつおいらはかわいいナマケモノ。 |
| ひかりの巫女 | アレックス・シェイカー | アーティストハウス(2003) | \1,905 | サヴェッジガールは公園に住む。鳩を食らい、毛皮をまとい、野犬の骨を磨いている。それは先鋭ファッションなのか。 「ダイエットウォーター」キャンペーンのコンセプトはこれだ。「トレンドスポッター」アースラは統合失調症の妹アイヴィーをモデルに使い、 新しいトレンド、新しいヒロインを作り出す。それは「資本主義」への挑戦となりうるのか。近未来を舞台に描く欲望と愛のファンタジー。 …なんだけど、テンポが無理してトレンディってところでしょうか。言葉の産み出すイメージをもっとしっかり把握していただきたいです。 でも考え方・発想法はわたくしと似ているかも。 |
| ハインリヒ・ベル小品集 | ハインリヒ・ベル | 圓津喜屋(2002) | \1,200 | 「エルザ・バスコライトの死」、「ベツレヘムの知らせ」、「パンの味」、「思いがけない出来事」、「青白アンナ」、「小人と人形」、「当時の天井」、「よみがえり」、「攻撃」 の9編を収録。1950年代・著者30代の作品で、戦後ドイツの世相にとどまらずさまざまな様相を独特の静謐な世界として描く。これすべて「隣人愛」と言えるかどうか、 わからんところもあったりして。 |
| みえない都市 | イタロ・カルヴィーノ | 河出文庫(2003) | \850 | 皇帝フビライは自分の大帝国のすみずみにどのような都市が存在するのか、詳細な報告を求めていた。彼が最も信頼するのは嘘つきのヴェネツィア商人マルコの 報告だった。 世界を征服しつつ、実はそのどこにも行けない大皇帝、彼は幻想の中でのみ、自分の大帝国を本当に支配できた。一方マルコは自分が踏破した土地も忘れ、 報告のためにのみ生きていた…。権力者の牢獄と自由な市民の対比が鮮やかな詩情豊かな作品です。 |
| 西瓜糖の日々 | リチャード・ブローティガン | 河出文庫(2003) | \760 | "iDeath"はコミューン的ユートピア。すべてのものはスイカから抽出した西瓜糖で作られ、平和が保たれていた。 虎たちは人を食うが、それは虎の使命だから仕方がない。わたしたちは鱒を飼うが、鱒たちはしゃべらない。昔の名残、それは戦争の日々なのか。その<忘れられた世界>ではどうやら本も読まれていたらしい…。 ようやく文庫化された詩的幻想小説です。 |
| 暗闇の中で | レイチェル・シーファー | アーティストハウス | \2,000 | 3つの物語から成る。「ヘルムート」は第二次大戦下のドイツで胸筋に障害があってあこがれの軍服を着ることのできなかった青年ヘルムートの話。彼は写真師の弟子となって、
銃後のベルリンを撮り続ける。駅が大のお気に入りで、駅員の制服を借りて清掃したり、その熱心さはスパイ容疑をうけるほど。
そしてついに老人たちとともにベルリン防衛隊に入隊することが出来た。その誇らしげな写真は…。 「ローレ」はドイツ敗戦直後、両親がアメリカ軍に逮捕された少女とその弟妹たちが、東部からハンブルクの祖母の元へと徒歩で流浪する。 身分証明書もなく、お金もない。道連れになったのは怪しい青年トーマス。しかし、彼らを助けてくれるには間違いない。それぞれが背負う「罪」が重い。 「ミヒャ」では「罪悪」はさらに明白になる。祖父は武装SSでベラルーシに進駐、敗戦後長くソ連に抑留された。大好きだった祖父はなぜそれほどまでに 長く拘束されたのか。戦時中の犯罪が理由なのか。1997年、学校教師ミヒャは衝動にかられ、その足跡を調べ始める。 トルコ系の恋人ミナ、祖母ケーテは賛成しないが、彼はあくまでも頑固にベラルーシまで行き、 当時の対独協力者の老人と面談する…。 写真がひとつのキーワードなのだから、『アウステルリッツ』のように写真がついていればかえってまだ救われたかもしれません。全体の雰囲気は重暗く、マジメでは あるけど気軽におすすめはできかねるかも。いや、いい作品ではあるのだけど。 |
| 博士の愛した数式 | 小川洋子 | 新潮社(2003) | \1,500 | 子持ち家政婦である私の今度の派遣先は、64歳の数学専攻の元大学教師。しかし17年前に交通事故で頭を打ち、記憶はきっかり80分しか保たないだそうだ。
数学の才能はそのままで子どもには無類にやさしい。私に小学生の息子がいることを知ると、鍵っ子はいけないから連れてここで夕食をいっしょにとれという。
彼は息子の平べったい頭を見て言った。「おお、これは賢い心がつまっている。君はルートだ」 まあまあ、ほのぼの系であるな。数学逸話もたくさんあるしそれなりに、いい話である。江夏に入れ込むというのはよくわかりませんが。 |
| 信長 あるいは戴冠せるアンドロギュノス | 宇月原清明 | 新潮社(1999) | \1,600 |
1930年7月ベルリン。アントナン・アルトーはカフェで日本人の美青年と話をしていた。ローマの少年皇帝ヘリオガバルス、
彼は太陽神を信仰するアンドロギュノス・両性具有であった。そして、東海の果て、宗教のガラパゴス日本にまた、その末裔が出現する。
その餌はナチスを釣ることができるに違いない。 法螺もここまで吹くと楽しい。しかし、残念ながら日本人の美しさには限界がありますね。うつけ殿に抱かれてあなたは蝶になるう〜るるるん。 |
| サウンドトラック | 古川日出男 | 集英社(2003) | \1,900 |
小笠原で忽然と発見された野性の漂流兄妹、トウタとヒツジコ。血のつながりはなく、偶然に同じ島に流れ着いたのだが、彼らは一種選ばれた子どもだった。
近未来の東京、移民人口とそれに反動する「純血」との対立の深まる中、新しい世界のありようを体現するべく、少女たちは踊る…。 うーむー、せっかくいいキャラ作ったのに、結局のところただの三流殺し屋になってないか。文体は丸山健二そのものだしー。 |
| 光ってみえるもの、あれは | 川上弘美 | 中央公論新社(2003) | \1,500 |
江戸翠は高一男子。シングルマザーでフリーライターの母愛子、祖母匡子との3人暮らし。「遺伝子上の父親」大鳥さんはときどきふらりと現れてはごちそうになって行くという、
典型的生活無能者。僕は「親友」花田、「恋人」平山水絵と屋上で昼食をとる。何が不満だ?事件なんて起こりそうもないよねー。 これまたなんとなく癒し系、つーか、川上さん独自のポスト内田百間かと思わせた幻想味もうすれて、普通の世界を描くようになってしまった…。 ま、本人がそれでいいなら仕方ないのですけどね。でも3つ上の小川洋子さんの作品と、どっちがどっちを書いても同じみたいというのも、なんだかなー。 |
| 閉じた本 | ギルバート・アデア | 東京創元社(2003) | \1500 | みずから「ガーゴイル」と表現するポールの顔は無惨だった。セイロンでの交通事故で眼球を失うほどの重傷を負ったブッカー賞作家ポールは、
口述筆記の筆耕者として新聞広告に応募したジョン・ライダーを雇う。
料理上手でパソコンも巧み人当たりのよいジョンはよき秘書に見えたが、次第に疑問もわき上がってきた…。 会話と独白のみで綴られたサスペンス。…だけど盛り上がりにはやや欠けるし、どんでん返しもちょっと安直かなあ。 |
| これから話す物語 | C.ノーテボーム | 新潮社(1996) | \1,600 | 死の瞬間、彼は回想する。「ソクラテス」とあだ名されたラテン語教師としての日々。その授業では、涙した女子生徒さえいたのではなかったか。 小さな学校でもあり、同僚夫婦とのことでもよい。事件はささやかなのだ。 生きることとは、言ってしまえばすべて要約可能なのだ。 ソクラテスはみずから毒杯をあおぐ。願わくばせめて、最後にそのくらいの自由は残されんことを…。 |
| 微笑を誘う愛の物語 | ミラン・クンデラ | 集英社(1992) | \1,900 | 「誰も笑いはしない」千野栄一訳、「永遠の憧れの黄金のリンゴ」千野、「偽りのヒッチハイク」千野、 「シンポジウム」千野、「年老いた死者は若い死者に場所を譲ること」沼野充義訳、「ハヴェル先生の二十年後」西永良成訳、 「エドワルドと神」沼野、の7編を収録する著者唯一の短編集。短編小説でもコントのような「落ち」を重視したものではなく、この著者の 長編同様に愛とそれに伴う偽善を描く。「笑い」もややほろにが風味かな。 |
| アルゼンチン短編集 バベルの図書館20 | コルタサル他 | 国書刊行会(1990) | \1,800 | 収録作品と著者は烏賊ではなくて以下の通り。 「イスール」ルゴールネス、「烏賊はおのれの墨を選ぶ」ビオイ=カサレス、「運命の神さまはどじなお方」カンセーラ/ルサレータ、 「占拠された家」コルタサル、「駅馬車」ムヒカ=ライネス、「物」オカンボ、「チェスの師匠」ペルツァー、「わが身にほんとうに起こったこと」ペイロウ、 「選ばれし人」バスケス。コルタサルのなんとも言えない不気味さはピカイチかも。お猿のイスールはアンソロジーで読んだこともあったかな。 いずれも幻想味溢れており、独特の文学風土というべきかもしれません。 |
| モーツァルトのドン・ジョヴァンニ | アンソニー・ルーデル | 角川書店(2003) | \2,200 | 1787年秋、プラハ。モーツァルトは『ドン・ジョヴァンニ』の初演を間近に控えながらはたと楽想が止まっていた。世紀のプレイボーイを語り継いだドンファン伝説、 その「実態」はいったい何なのだろう。セックスを象徴とした自由への憧れなのか。見かねた脚本家ダ・ポンテは、当代一流の遊び人騎士カサノヴァを招き、 モーツァルトを苦しめているくびきを解き放とうと思い立つ。喜んで招聘に応じたカサノヴァがモーツァルトに見せたある人物からの書簡とは…。 |
| ペインテッド・ハウス | ジョン・グリシャム | 小学館(2003) | \2,400 | 1952年9月、アメリカ南部アーカンソーでは綿摘みの季節を迎え、農家はみなぴりぴりとしていた。出稼ぎのメキシコ人や
山地民などよそから来る者も増え、また天気の動向も気になる。7歳のぼくルークもりっぱな稼ぎ手だった。
小作農は摘んでも摘んでも借金がかさむばかり。それでも何十年、
何百年来、彼らは農夫以外の生き方を知らないのだ。しかし、田舎町にも時代の波は着実にやってくる…。 7歳にして、 19歳のおねーちゃんの水浴をのぞきたいかどうかはともかく、朝鮮戦争に行っている叔父リッキーは結局どうなったとか、結末がぜんぶ パスされている。自伝であって小説ではないのだからいいのかな。もちろんグリシャムらしく事件も起きますけど。 |
| ケリー・ギャングの真実の歴史 | ピーター・ケアリー | 早川書房(2003) | \2,500 | 1854年、アイルランドからの流刑囚の息子としてオーストラリアに生を受けたネッド・ケリー。彼は幼少時から貧困と警官・役人の不正に
よって抑圧され、お定まりのようにお尋ね者人生を歩むことになった…。 登場人物ではなんと言っても「師匠」であるハリー・パワーがかっこいい ですね。いかにも老義賊という雰囲気で、食い詰めたとしても貧民や弱い者から奪うような卑怯なまねは決してしません。うーん、あとはオー ストラリアに興味のある方限定、「シナ人」という語の多用も妙ですな。抑圧者の味方ケリーも、当時の常識としては人種差別の壁が乗り越え られなかったというところも「真実の歴史」なのでしょう。さすが白豪主義。なんとなくぎこちないのは、まだ見ぬ娘にあてた手紙なら、スペル は間違っているにしても父親としてはある程度の格調は保とうとするはずなのに、それが感じられないせいなのだろう。ついでにいえば 「くそいまいましい」という訳語、これは何語? |
| 英仏百年戦争 | 佐藤賢一 | 集英社新書(2003) | \680 | 歴史教科書によれば百年戦争は1337年から1453年まで続き、前半は黒太子エドワードがフランスを蹂躙し、 後半はジャンヌダルクが救国のヒロインとしてフランスを優位に導いたとされる。だが、実際は当時の英国は国家として 未成立と言ってよく、単なる戦国大名の領土争いに似ていた。彼らの本貫は、むしろボルドーを中心とするアキテーヌに あった。アンリ・ドゥ・プランタジュネは結婚によって大陸とイングランド双方に領地を持つことになるものの、フランス王の 権威が高まるに連れ大陸を追い出され、その子孫にフランス語を解しないイングランド生まれの英国王が現れるに至り、 ようやく国民国家として成立するのだ。ナショナリズムはまだ歴史が浅いのだが、ここにその萌芽を見ることが出来る。 そうした「国家」成立事情はヨーロッパに限らず、「国民の歴史」を12世紀以前に遡るなど、全くの幻想に過ぎないのである。 |
| ティモレオン センチメンタル・ジャーニー | ダン・ローズ | アンドリュース・クリエイティヴ(2003) | \1,500 | ティモレオン・ヴィエッタ、年齢不詳の雑種犬。老いた英国人の音楽家コウクロフトは、同性の恋人が去ってからは
ティモレオンと暮らしている。ある日、ボスニア人と称する20代半ばの男が荷物一つで転がり込んだ。毎週水曜日夜7時
にフェラチオしてくれるなら、好きなだけ家にいていい。―そのお気に入りのジョークを真に受けてやってきた奴。お互い
に愛情もないし、やがてティモレオンと仲違いするのがわかっているのに、銀色のショートパンツの少年の面影忘れがた
く人恋しいコウクロフトは、ボスニア人を受け入れてしまう…。
後半、犬のティモレオンが遭遇する人々のエピソードが哀しい。 それが「センチメンタルジャーニー」なのである。前半のゲイラブシーンが欲情だけで、美しくないのよね。 |
| 灰と土 | アティーク・ラヒーミー | インスクリプト(2003) | \1,800 | 幼いヤースィーンは耳が聞こえなくなった。砲撃の衝撃波にやられたのだ。祖父である「きみ」は、彼を父親モラードのいる
炭坑に連れて行く。村で何が起きたか、嫁と子に何が起きたか、老いた家長はそれを息子に訴えねばならない。ソヴィエト
軍侵攻下、山並み続くアフガニスタンの砂埃を伝えるような文学。 それにしても伝承の書「王書」が入手できないのはさびしいです。岩波文庫だから そのうち見つかるかなー。キャラクタとしては、隠れた人格者の 小商店主ミールザー・カディール、一見親切で頼れそうな炭坑長が実は…など独特の設定。さすがは苦難のアフガン、人を見る目も一筋縄ではいきません。 |
| 帝国を壊すために 戦争と正義をめぐるエッセイ | アルンダティ・ロイ | 岩波新書(2003) | \740 | 『「無限の正義」という名の算術』、「戦争とは平和のことである、戦争のお話―核爆弾で楽しむ夏の家族ゲーム」、
「民主主義の女神―彼女はたしかにこの地にいるはず、でも誰も彼女のことを知らない」、「来たれ、九月よ」、「<帝国>に抗して」、
「民衆のための<帝国>ガイド」、「帝国製インスタント民主主義―ひとつ買うと、もうひとつただで貰えるインスタント食品はいかが?」
以上7篇の反戦エッセイを収録。 インド在住の女性作家が、あくまで一市民の立場から、強大になりすぎた世界帝国「アメリカ」に対し 小気味よい文章で批判を試みる。論旨明快で極めてわかりやすく、青少年にも読んでいただきたい一冊。 それを蟷螂の斧と嗤うのはたやすいが、いつか高転びに転ぶのは、傲慢なる先進国とその同調者であるあなたがたである。 |