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題名:  エロイーズとアベラール ―三つの愛の物語―
原題:  Adieu, Mon Unique
著者:  アントワーヌ・オドゥアール
訳者:  長島良三
発行:  角川書店 (2003/02/05)
価格:  \2,100
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「Adieu, Mon Unique さようなら、わたしのただひとりのひとよ」
【内容紹介】
 当代随一の哲学者にして神学者アベラールが講義をすれば、全国から集まった秀才たちもその舌鋒の鋭さに驚くだろう。異端と見せかけ耳目を集め、その上で巧みに神の存在を証明してみせるその論理の冴えはどうだ。彼の魅力に屈したのは学生たちばかりではない。聖堂参事会員という有力市民フュルベールの姪、少女エロイーズもまたたちまちにして彼の虜となった。もちろん彼女の汚れを知らぬ一途な視線に、屈せぬ男などあろうはずもない。さりげなく見つめ合う二人の心の中も知らず、高名な学者と家族同様につきあいたいとの虚栄心から、フュルベールはアベラールをエロイーズの家庭教師に迎えようとする。さあ、お膳立ては整った。誰も背中を押す必要はない。時にアベラール39歳、エロイーズ17歳。
 12世紀フランスを舞台とする史上有名な恋愛事件を、イギリス人記録者の限りなく優しい目で再現した香気あふれる恋愛小説。
【感想】
「アベラールとエロイーズ」と言えば、岩波文庫からも刊行されている残された往復書簡集によって、あまりにも有名なカップルですね。わたくしはこの書簡集は未読なのですが、海外の小説ではときどき言及されるので概要程度は知っていました。なんといっても衝撃的なのはアベラールがこのスキャンダルのさなか男根を切り落とされてしまうという事件でしょう。やや意外だったのはこの事件は「私刑」だったことです。なんとなく宗教裁判あるいは刑法に触れたためかと思っていたのは先入観でした。もっともこの事件がなければ、二人のことが後世まで語り続けられることはなかったのでしょうけど。
 
 だがそれは二人の「歴史」にとって結末ではなく、著名な往復書簡の始まりだったのです。この事件を契機にアベラールは「学者」から聖職へと転身し、エロイーズもまた修道女の道を選びます。しかし彼女は俗世を捨てたにもかかわらず、まだ醒めやらぬ愛情とさらに肉体の快楽の記憶を持て余し、全身でアベラールを慕い続け、赤裸な気持ちを手紙にしたためます。やがて修道院長となってなおひとりの「愛人」であり性的魅力にもあふれていたのでした。
 そう、それは恋人たちが互いの肉体を味わい尽くした上での事件でした。もしもそこにほんとうの精神的な愛だけで満足した人間がいたとしたら、彼こそはこの恋物語を伝える者にふさわしい。こうして著者は二人の記録者としてイギリス人のエトランゼ、ウィリアムを配します。
「僕は、きみの望みどおりの友だちになるよ。きみが僕を必要とするときはそばにいて、邪魔なときはいなくなる」ウィリアムは初めてエロイーズを見た瞬間から恋に落ちます。愛されないと知りつつ、いつまでもただ一人の人を思い続けます。私たちは地上で永遠を求めるが、それは天国でしか見つからない。そのストイシズム、至純さがむしろエロイーズには重荷になったこともあるでしょう。さらに彼はアベラールの「弟子」でもあり、陰に陽に彼の恋路の手助けを買って出ます。
 もちろんこの二人は恋に夢中で他のことは目に入らず、またアベラールにとっては初めての恋であり、執拗に快楽を求めます。当然の結果として子供までできるのですが、そこにはお得意の論理・理性のかけらもありません。典型的な恋愛のエゴイズム、お互いしか目に入らず、一瞬たりとも離れることを拒み、人目をはばからずむつみ合う姿。すべてを踏みつけにして、愚かな姿をさらし、それでも恋愛は美しいと言えるのか? 二人の影法師としての人生を送るウィリアムの目に映るのは――それでも美しい、大好きな師と片思いの少女の戯れる姿なのです。全く馬鹿だよ、ウィリアム。われわれと同様に。

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