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題名: ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で
原題: Henry J. Darger In the Realms of the Unreal
著者: ジョン・マグレガー
訳者: 小出由紀子
発行: 作品社 (2000/05/25)
価格: \6,500
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深夜。孤独。妄想。書く、描く、なぞる。彼は誰に見せるつもりもなく、ひたすら書き続けた。
【内容紹介】
1973年4月、81歳の老人がシカゴのアパートでひっそりと世を去った。ほとんど人付き合いのなかった彼の部屋を片付けていた家主のネイサンは、そこに驚くべきしろものを発見する。精神遅滞で薄汚れた老いぼれと思われていた彼が長年にわたって書きためた1万5千ページにも及ぶ大長編小説と、教育も受けず独自に工夫したさまざまな手法で描いた稚拙にして醜悪、キッチュにしてバッドテイスト、そして同時に抗いがたいほどの魅力に溢れた数百枚の絵であった。それらの世界には統一したタイトルが記されていた。曰く、「非現実の王国で」。
【感想】
本書は『非現実の王国で』と題されたダーガー(1892-1973)の未整理の膨大な遺作を、ア
メリカ精神医療芸術研究の第一人者、マグレガーが「考古学的」に読み解き、解説をつけたものです。作品社刊はさらにその抄訳であり、原著はまったく厖大な「資料」と言えるでしょう。
その内容を要約すれば、敬虔なキリスト教国アンジェリニアのヴィヴィアン将軍の7人の娘たち(ヴィヴィアンガールズ)が、邪悪な反キリスト教国グランデリニアンと闘うというシンプルな善悪二元世界。しかしその内容は、空想から妄想、そして個人的な嗜好の最奥部へと突き進みます。
グランデリニアンは子どもを奴隷とし、反逆などしようものなら残虐行為もためらいません。その記述にダーガーはひたすら執着します。画面に描かれるのは内臓を垂れ流し、脳をはみだした女の子たち。さらにはブレンギグロメニアン・サーペントと呼ばれるクリーチャーたちも登場します。ストーリーを内包した異様な写実性は、ほとんど「餓鬼草紙」「病草紙」と言った説話系の絵巻物さえ彷彿とさせるほどです。
さらにしばしば言及されることですが、ここに描かれた虐待される女の子たちの多くは裸であり、しかもその股間には男性器―というよりむしろ「おチンチン」をつけています。あきらかに不釣り合いなその邪魔者は、丹念に広告イラストからトレースした可憐なキャラに全くそぐいません。それを書き加えずはいられなかった作者の心理は、いかようにも想像できます。単なる無知と片付けるのがもっとも無難でしょうが、わたくしには、ペドフィリアとサディズムの悪魔の囁きに身を焦がし、ついに「善きクリスチャン」という規範から脱却できなかった自己抑圧と苦悩の表現のように感じられます。その崩れたバランスが制作衝動へとつながって行ったのではないでしょうか。
それにしてもこうした「作品」との出会いは、人間には技の巧拙を超えたある不可思議な領域が存在することを、否応なしに確認させられますね。