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題名:  アースシーの風 ゲド戦記V
原題:  The Other Wind
著者:  ル=グウィン
訳者:  清水真砂子
発行:  岩波書店 (2003/03/20)
価格:  \1800
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【内容紹介】
 腕の良い「修繕師」ハンノキは、同じ能力を持っていた愛妻ユリを失った。その亡妻は、毎夜彼の夢に現れては何かを訴えかけるという。死者の言葉に疲れた彼は助けを求めて世界をさまよい、ついに大賢人ハイタカのもとを訪ねた。いや、かつての大賢人、以前の大魔法使いゲドと言うべきか。生ける伝説ゲドは、今や伴侶テナーと、ある事情により養っている娘テハヌーの三人で細々と暮らすただの老人に過ぎない。しかも現在女たちはレバンネン王の元を訪ねており、ヤギの世話、畑の世話もよたよたとひとりでやらねばならぬ身だった。
 一方レバンネン王の元には、南方で大王を僭称するソルが、縁組みを強制するつもりか赤いベールに包まれた王女を送り込んできた。また、西方では竜の侵攻が報告されている。さらにハンノキの夢は、死者たちの不満が噴き出そうという予兆なのか。王国は今や、平和を乱す渦に巻き込まれようとしていた。そしてテナーとテハヌーは、孤独な王に助力をすべく、王の側にいるのだった…。
 
【感想】
 わたくしにとっては、と言うより大半の読者にとっては突然のゲド戦記第5巻です。前巻のサブタイトルが「最後の書」でありながら、あえてこれを書いた作者の意図は明白でしょう。あくまでも二元論にこだわる世界は、一見予定調和を求めているように見えながら常に調和を失う傾向にあります。善か悪か、生か死か、あるいは人とドラゴン。二つの世界は反発し、引きつけあい、相互に影響を及ぼし合います。そこに介入するためには、文字通りぼろぼろになる覚悟で身を捨ててかからねばなりません。前回まではゲド、今回は少女テハヌーがその役目を引き受けます。
 前回「最後の書」で忽然と現れたテハヌーは実は竜の血筋を引く者でした。彼女は幼い時たき火に放り込まれ、右半身は焼かれてケロイド状、右手はかぎ爪に変形しているという、「視覚的」には不具者であり、児童文学の登場人物としては従来の常識から言えば異質の存在です。もっとも「ゲド戦記」シリーズ自体「児童向け」という枠を越えており、さらにはハイ・ファンタジーの傑作として並び称される『ナルニア』『指輪』と比べてもまた明らかに異彩を放っております。「遠い遠い昔の物語」ではなくて、今なおわれわれの住む世界のほんの裏側で息づいている世界を感じさせると言えるでしょう。あるいはシンプルな勧善懲悪にとどまらず、ジェンダーや戦争をはじめとする現代社会がなお引きずり続ける問題に対し、著者自身の「怒り」がストレートに表現されるとも感じられます。
 もちろん紙面ではそれほどファナティックなことはなく、むしろ炉辺の語りそのままに、静かに綴られて行きます。これは同じ著者の『闇の左手』や『オールウェイズ・カミンホーム』のようなSF作品でも感じられたのですが、理性が先行するテーマ付けではなく、創作衝動がそのまま現代を体現し、形を変えて作品に結晶化しているように思えます。
 さらにこの書での印象的な登場人物は、ベールに包まれた姫でしょう。言葉が通じない故の誤解と悲しさ、しかし博打は万国共通というのは、 思わず笑ってしまいますね。
 そうそう、忘れちゃいけないのが子猫の存在。「死を知らず、生のみをみつめる」動物の暖かさを思い出させてくれるでしょう。


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