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題名:  エバ・ルーナ
原題:  Eva Luna (1987)
著者:  イサベル・アジェンデ
訳者:  木村榮一・新谷美紀子
発行:  国書刊行会 (1994/06/20)
価格:  \2,300
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【内容紹介】
 わたしの名はエバ。それは「生命」を意味している。ここは南米の産油国、男たちは石油の動向によって一喜一憂し、さらには運命をも左右されているのだ。人体保存法の権威ジョーンズ博士の住み込み女中だった母コンスエロは、わたしが6歳の時、鶏の骨を喉にひっかけて死んでしまった。それ以来わたしはひとりで自分の心の中からわき上がってくるお話を語りながら世の中を渡り続けた。巷に飛び出してストリートチルドレンとなり、あるいは政治家の女中となって必死に生きてきた。でもどんなときでも、娼家の女将、アラブ人の商人など、わたしの「お話」に耳を傾け、わたしを助けてくれる人々が必ず現れてくれた…。
【感想】
 本書に描かれるのは南米の某産油国、と言えばもちろんベネズエラが連想されます。『精霊たちの家』で祖国チリの激動を描いた著者は、次に亡命先であるベネズエラを舞台として、きわめて魅力的な一女性を創造しました。エバ・ルーナ、生命と月の子である彼女は現代のシェエラザードだったのです。
 
 小説好きのわたくしたちも、また常に「お話」には心惹かれ続けます。著者イサベルその人を思わせるようなこんな天成のストーリーテラーが側にいたら、ゼッタイ抵抗できないでしょうね。
 エバは小さいときから本で読んだお話やラジオドラマをもとにストーリーを組み立て、また膨らまし、相手の望むように語る才に恵まれていました。語りの魔力がいかに人を惑わすかは、こちらのみなさま先刻ご承知の通りです。奉公先の女たちにとどまらず、彼女の境遇の変遷に合わせるように次々と現れる「庇護者」たちもこの魔力で呼び寄せられているかのようです。しかもその人々がこれまた独創的にして個性的な連中ばかりなのです。
 
 彼女が成長するうえで一番重要だったのは精神的にも「父」に近く、無限の優しさを秘めた兎唇のアラブ商人でしょうけど、わたくしのお気に入りキャラは、一種のマッドサイエンティストであるジョーンズ博士かな。わたくしもマッドサイエンティストには憧れていましたからねー。わたくしの場合、マッドという点ではいいところまで行っており、とりあえず理系なので強引に言えばサイエンティストなのだけどどうあがいても「マッドサイエンティスト」という勲章にはほど遠いのですが。おっと話が逸れた。それからもうひとり、性同一性障害というより、自分こそが真の女性であることに目覚める美女ミミーの魅力も忘れがたいものがありますね。
 そればかりではなく、本書ではさらにもうひとつのストーリーが並行して語られるのです。こちらは舞台をがらりと変え、オーストリア北部の村、第二次大戦直後ソビエト軍に占領された地域から始まります。こちらの主人公はロルフ・カルレ。ほとんど精霊の子のようなエバに比べると、暴力的な父をもち、暗くまた不安に満ちた少年時代を余儀なくされています。この二人がいずれ出会うことは約束されているのですが、それはどのようなシチュエーションなのか、次第に期待は高まって行きます。
 
 こうしてこの物語は、熱帯南米の申し子のようなエバの生い立ちから、伴侶を見つけるまでのメインストーリーとともに、エバと時空を共有した多彩な人々の境遇と人生をも描く連作構造とも取ることができます。その出会いと別れ、そのたびに彼女は満たされ、あるいは失い、彼女の内部にはストーリーが折り重ねられて行きます。
 
 実のところ人はみな、このようにたくさんの物語に包まれて、存在しているのでしょうね。


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