==============================================================
題名:  許浚(ホ・ジュン) (上下)
原題:  許浚
著者:  李恩成(イ・オンソン)
訳者:  朴菖熙
発行:  結書房 (2003/04/20)
価格:  \3,800
==============================================================
「医者のうち、第一は心医。すなわち相対する人をして常に心を安らかにさせる人格の持ち主である」。17世紀に実在した「医聖」を描く韓国300万部の大ベストセラー、ついに邦訳。
【内容紹介】
 朝鮮に医聖あり、その名を許浚(ホ・ジュン)という。身分制度が極めて厳しかった16世紀李氏朝鮮、浚は郡守の子でありながら母は私奴婢の身分の「賤妾」であり、庶子とすら認められなかった。鬱屈する彼は明国境にほど近い故郷を離れ、身分を隠して流民となって新天地で暮らすことを夢見る。縁あって両斑(文・武の士大夫)の娘を妻とし、母とともに流れ着いたのは南部の山陰(サノム)。ここで彼は母が急病に伏したことから、名医柳義泰に出会う。柳義泰こそはかつて九鍼勝負で時の御医、楊礼寿(ヤン・イエス)を破り、疎まれて下野を選んだ男。そして彼の回りには、やはり孤高の男たち、らい者のコロニーを作る安光翼や金民世(三寂大師)が集っていた。許浚は柳義泰の大きさに打たれ、医員の道をめざし押しかけ弟子となる。しかしそれが免賤の道に通じると知ったとき、その彼にして理想を一瞬忘れ、欲望に苛まれるのだった…。
【感想】
『東醫寶鑑』(トンイボカン)は壬辰・丁酉の両倭乱(秀吉による朝鮮侵略)のさなかも編纂が進められ、ついに完成したのは1616年、25巻3127面に及ぶ大部の著です。当時の医学知識すべてを網羅し、単に漢方学の輸入だけではなく朝鮮に根ざした薬草の処方を加え、具体的な症例も記し「使える医学書」として今なお出版されていると言います。
 本書はその『東醫寶鑑』の編纂者であり、また皇宮内医という当時の医師の最高位にありながら常に庶民の医療にも関心を持ち続け、朝鮮では「医聖」として伝説化されている許浚の生涯をたどった小説です。物語は次々降りかかる難局に手に汗握り、ドラマチックに展開して行きます。かなり脚色を感じさせ各章に見せ場を作るというところは、最初テレビドラマとしてスタートしたためもあるのでしょうが、身分制度に対する「恨(ハン)」を抱きつつ、尊敬する恩師柳義泰の説く「心医」をひたすら目指すというシンプルな構造で読者を離しません。
 主人公の許浚も傑物ですが、キャラクターとしてはやはり師の柳義泰、その友人である安光翼や金民世が凄い。物語としてはこの3人の桁外れ行状記に主力を置いたほうが盛り上がったのではないかなとも思えますね。ドラマとして成功したのも、この前半部分がしっかりしていたおかげでしょう。
 柳義泰の人格高潔なことは、医学界の最高権威・楊礼寿に対する反抗でもわかりますが、自分の倅でも決して特別扱いせず、金儲けに走らない「心医」であることを要求します。また現在でも差別がぬぐい去られたとは言いがたい、らい者のコロニーに尽力する人々の姿や、ついに医学のために我が身を捧げる柳の姿などは鬼気迫る物さえ感じさせます。許浚もこういった先達の姿を見て成長して行きます。
 ところが惜しむらくはこの作品、未完の大著なのですねー。許浚は内医となり当時の中華である明にも渡って見聞を広め、皇帝の信頼も得て、さらには有能な助手であり彼を秘かに慕う少女美史も配して、一方では秀吉が攻めてくるし、いよいよこれからどうなるんだというところで、著者が倒れたのでした。
 その点はきわめて残念なのですけど、ここまででも著者の「伝えたかった思い」は十二分に詰め込まれた書であると思えます。


BACK1