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題名:  死神とのインタヴュー
原題:  Interview mit dem Tode (1948)
著者:  H.E.ノサック
訳者:  神品芳夫
発行:  岩波文庫 (1987/02/16)
価格:  \760
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 終戦直後ドイツの「良心」を代表する作家、ハンス・エーリヒ・ノサック。彼の著作は静謐に満ち、その叙述には「死」が長い影を落とし、モノローグ形式で語られる文体はきわめて内省的と感じられます。しかしそこに登場する人物たちも作品の雰囲気そのものも、けっして陰鬱ではありません。
 敗戦国民ゆえの卑屈な自己憐憫に陥ることもなく、端然と立ち続け、死と悲劇を考察し続けた作家。そうした彼の姿勢は、「死」や「戦争」というものがどこか遠いところのおとぎ話ではなく日常的ですらあった時代、人は何を考えて理性を保っていたかを教えてくれます。そして現在でもなお、無差別殺人行為としての戦争がこの世から消滅しない限り、ノサックの視線は輝きを失わないのです。
 
 本書は彼の第一短編集の翻訳であり、現在唯一新刊で入手できる著作です。ここには「人間界についてのある生物の報告」「ドロテーア」「カサンドラ」「アパッショナータ」「死神とのインタヴュー」「童話の本」「海から来た若者」「実費請求」「クロンツ」「滅亡」「オルフェウスと…」と、プロローグ・エピローグを思わせる掌編の2編を前後に据えた、初期短編9篇が収録されています。
「初期」とは言いながら、彼は意に染まぬ会社勤めの傍らに書きためた原稿全てを1943年7月のハンブルク大空襲で失い、戦後再びペンを取ったときはすでに中年の域に達していました。日本の知識人もそうであったように、両大戦の狭間で徴兵年限も過ぎ、左翼思想家と目されていた彼はおそらく戦争に対してシニカルな態度をとっていたのでしょう。しかしそれは絨毯爆撃という新規にして効率的な戦術に遭遇するに及び一変します。
 その状況は、ここに収録されている作品「滅亡」に詳しく述べられています。それは一種のルポルタージュでもあり、真夏の大量虐殺の暴戻ぶりと、蠅とドブネズミの跳梁するその後の悲惨さをむしろ淡々と書き記します。たとえば加害側被害側ともに死者の数を操作する技術、それもまた普遍的であることすらも。
 1943年7月。もちろんそれは歴史的には単に一地方都市の「滅亡」にすぎません。言うまでもなくさらに破壊は続きますし、その日付以前にも同胞が手を汚した幾多の死があったはずです。しかし、目の前の破壊、肉親の死。それはひとりの人間にとっては充分すぎるほどの死なのです。まさに「兵は不祥の器」、殺人を楽しむ者のみがこれを美とするのでしょう。
 
 しかし死を扱いつつも、どの作品も思わず笑いがこぼれてしまうような不可思議な諧謔味を有しています。これは決して企んだブラックユーモアではないのですね。それは死を象徴的に表現した、というよりはむしろ奇矯とも言えるシチュエーションに負うところも大きいと思われます。
 たとえば表題作「死神とのインタヴュー」では、死神はマザコンかとも思える青年実業家の姿で現れます。なにしろ死人はぞくぞく現れるので、手際よくさばかねばならんのです。
 さらには『実費請求』においては、絞首刑を執行されてしまった男が、706マルクと8ペニヒという中途半端な処刑実費請求が女房に行くことを思い出してしまうのです。これでは幽霊が主人公でも、ホラーにも陰々滅々にもなりようがないですね。
 
 ある意味「過去の作家」とも思われるでしょうが少なくともわたくしにとっては忘れがたい作家であり、長編作品の復刊も望まれるところです。


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