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題名:  カフカ短編集
原題:  Erzaehlungen und kurze Prosa
著者:  フランツ・カフカ
訳者:  池内 紀
発行:  岩波文庫 (1987/01/16)
価格:  \520
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 現代文学において「あまりにも有名すぎる」作家、フランツ・カフカ(1883-1924)。彼が生前に公刊した著作はすべて短編であり、長篇は未完のまま筐底深くしまい込まれ、遺言が忠実に実行されれば日の目を見ずに焼却処分となる運命でした。
 彼にとって「短編」と「長篇」はそれほどまでに意気込みが違ったのでしょうか。しかし短編の中には本書にも収録されている「火夫」のように、長篇の一章として書かれたものも存在します。おそらく彼は、自分でもすみずみまで俯瞰できる形としての「短編」は、安心して発表することができたのでしょう。長篇の場合であっても著者自身がその結末に至るまで見通せるような、最初から厳密にして完璧な「書き下ろし」でなければならず、残念ながらその時間は彼には残されていなかったのでした。
 
 本集は、そのカフカが生前に発表した短編作品から、著名な「流刑地にて」を含む20編を収録します。彼は遅筆との印象がありますが、短編に関しては一晩で書き上げられることもあったと言い、事実ここには散文詩ともいうべき掌編も見受けられます。
 作品のほとんどは悪夢のような情景に翻弄される市井人であり、訳者池内氏も指摘しているようにこれらの先取りされた逼塞状況は内田百けんに通じ、あるいはファンタジックとも取れるナンセンス性は宮澤賢治にも通じます。したがって、日本人にとってはむしろなつかしい風景とも言えるでしょう。難解であると思うなら、「解釈」を捨て、その世界に身を委ねることです。人間観察の奥に潜む「おかしみ」が見えて来ます。人はいかようにも残酷になれると同時に、そのどん底での「おかしみ」から免れることもできない存在なのです。いくつかの例をあげてみましょう。
 
「流刑地にて」は残酷な機械による処刑を旅人が見学します。しかしそのネジやバネを飛ばしながら運転される機械は、ポオの「陥穽と振り子」というよりは、むしろチャップリンの「モダンタイムス」の拡張のようです。きわめて残虐なはずなのに、そこにホラーを感じる読者はまずいないでしょう。処刑されるはずの囚人と看守の兵士も、マルクス兄弟あたりを連想させるノリです。しかし数日後、突然何かの拍子にあなたの目の前にその深淵が口をぽっかりと開けるのです。諧謔と残虐は、彼にとっては等価なのでしょうか。
 
「中年のひとり者ブルームフェルト」ではさらにおかしい状況が展開します。ちょっと孤独で、ペットが欲しいかなと心弱くも思ったブルームフェルト氏に突然つきまとう2個のピンポン球、これはまさに「唐突な人格」です。しばしばこの「人格」は物体やら獣やらに与えられてしまい、そのさりげない擬人化がまたおかしみをさそいます。「流刑地にて」では処刑機械もどうやら人格を獲得していたようですね。
 
「狩人グラフス」は蘇りのラザロです。しかし、これまた多くの蘇生者のようにグロテスクでもホラーでもありません。悪夢には違いないのですが、どこか欠落した理性にひきずられそうになって行きます。
 
 これらの作品の終わり方は、たいてい唐突です。高いところでえへらえへらと笑っていたら、突然ハシゴを蹴り倒されたような気分。カフカはすんごく意地悪な性格だったのかもしれませんね。それにしてもピンポン球やオドラデク、雑種の猫羊、みんな可愛く思えるのは、わたくしもじゅうぶんヘンタイなのかな。
 
(収録作品)
「掟の門」「判決」「田舎医者」「雑種」「流刑地にて」「父の気がかり」「狩人グラフス」「火夫」「夢」「バケツの騎士」「夜に」「中年のひとり者ブルームフェルト」「こま」「橋」「町の紋章」「禿鷹」「人魚の沈黙」「プロメテウス」「喩えについて」「万里の長城」以上20編。


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