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題名: 黒い悪魔
著者: 佐藤賢一
発行: 文藝春秋 (2003/08/10)
価格: \2,000
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【内容紹介】
アレクサンドル・デュマと言えば『ダルタニャン物語』などで名高い作家だが、もうひとりのアレクサンドル・デュマはカリブに浮かぶサント・ドミンゴ島の生まれ、長じてラ・パイユトリ侯爵がパリに引き取ったのは、黒人奴隷娘との間に作った混血非嫡出とはいいながらも一人息子には違いなかったからだ。しかし、侯爵は再婚のために彼を捨て、彼は軍隊に自分の居場所を見出した。軍事的教育はなくとも、恵まれた体格と膂力、何よりも入隊初日に上官3人を決闘でやっつけるという熱気で彼は名物兵士となる。旅籠の娘マリー・ルイーズに惚れたはいいが、娘の父が示した条件はせめて軍曹、なあに、革命ついでに共和国を護る黒人部隊の将軍になってやる。
フランス王党派からは「ディアブル・ノワール」、オーストリア軍からは「シュヴァルツ・トイフェル」、そしてカイロのマムルークからは「皆殺しの天使」、呼び名は替われど、彼は直情径行そのままに、共和国の大義、すなわち差別のない世界のために戦い続ける。しかし彼の前に立ちはだかったのは、個人の野望に燃える同胞「ヒーロー」ナポレオンだった…。
【感想】
デュマ文庫本の巻末解説あたりでお目にかかる「父はデュマ将軍」という呼び名はお飾りか自称かと思っていたら、現実の将軍でしかもなかなかの傑物だった
のですね。そもそも美貌の混血児で腕力自慢、しかし出自と肌の色ゆえに差別を受けてきた男は、革命で水を得た魚のように成り上がっていきます。その悪鬼のごとき強さは
ただものではなく、長坂玻の張飛もかくや。しかし一方で
共和国軍の主導権を握ったのは、王党派のクーデター蜂起をいちはやく打ち破ったナポレオンでした。デュマも最初は戦略の天才ナポレオンに対しなんとな
く貫禄負けしているようです。しかしそれはナポレオンが「共和国」のために戦っているうちであり、やがて彼の野望が見えてくると、人間としてゲスであることが
現れてきます。ナポレオンはすでに理想を失い、帝国の秩序のためには差別を容認しているのでした。
――こいつはおれの戦闘能力だけを利用しようとしているわけだ。はん、そんな「栄光」はこっちから願い下げだ。
著者佐藤氏の「反ヒロイズム」「反権威」はここでも健在です。たとえば氏の『カエサルを撃て』では、「歴史家好みのヒーロー」カエサルも好色な小男として、
けちょんけちょんにやられてましたね。
こうしてデュマ将軍は、ナポレオンが政権の座に着いて反動的な人種差別政策が復活する中で免職となり、不遇な晩年を送ります。しかし子どもの前では
「失業した老人」ではいられません。最後までデュマ将軍を慕う元副官も巨人伝説を吹き込んで、その子は誰よりも好きな父を自由に思い描き、誰よりも強い「真の
英雄」を空想の中に作り出します。将軍はついに3歳の息子を残して病死しようとも、その姿は永遠に語り続けられるのです。
そう、将軍の最愛の息子であったアレクサンドル・デュマの筆の中には、あの無限に強い自由平等の旗手「黒い悪魔」が、銃士相手にも恐れず決闘をする
男や、獄中でも挫けずついに脱走する男として随所に姿を変え、現れているのでした。