題名: 魔女は夜ささやく(上下)
原題: Speeks the Nightbird
著者: ロバート・R・マキャモン
訳者: 二宮 磬
発行: 文藝春秋 (2003/08/30)
価格: \5,334
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RRM沈黙を破る十年ぶりの長篇は、正統歴史ミステリ。
【内容紹介】
舞台は17世紀植民地時代のカロライナ、史上悪名高いセーラムの魔女裁判の噂も消えぬその7年後、雨の降り続く原生林の中を、親子連れとも見える二人の男が馬車で通り抜けようとしていた。年長の男ウッドワードは判事であり、20歳の連れマシューはその書記である。彼らはチャールズタウンから新興開拓地ファウント・ロイヤルに「魔女裁判」のために派遣されるところだった。悪魔とまぐわうみだらな姿を目撃された上に、家の床下から呪術の藁人形が発見されたことが動かぬ証拠となって逮捕された「魔女」レイチェルは、夫と司祭を切り裂いて殺害したという。おびえる住民は次々町を去り、町長は一時も早い裁判と処刑を望んでいた。闇と迷妄、そして欲望の渦巻く中、その生い立ちゆえに「理知」を武器とせざるを得なかった青年が、愛と正義のために挑む孤独な闘いの行方は…。
【感想】
ひさびさマキャモンの長篇ですが、読者を楽しませる技量は相変わらずですねー。掴みの部分から判事一行は世にも怪しい旅籠に宿泊、一気に緊迫シーンが展開します。しかもその叙述だけで二人の背景や来歴なども明らかになるという仕掛けが施されています。もちろんその一部は伏せられ、またこの導入部が伏線になっていたりするという重層的な仕掛けも楽しませてくれます。たとえば判事にとって何よりの宝物、金糸入りのチョッキ。それは植民地の巡回判事にはふさわしくない代物です。それは彼のどのような過去と結びついているのか…。
判事に限らず植民地時代ということで、入植者の多くはなんらかの過去を背負っており、またたいていの場合その清算が済んだというわけではありません。「約束の地」を見いだそうとした者、「赤肌ども」を追い払って広大な土地を手に入れることを目指した者、欲望は常に犯罪の動機となり、あまりにもできすぎた「魔女」が作られます。
これに対し新大陸生まれの若い書記マシュー、あるいは読者にとっても、その魔女は見え見えの冤罪です。しかし、証言はすべてレイチェルが犯人、少なくとも悪魔と交歓したことを告げています。判事の立場としてはこれを採択せざるを得ませんし、それは「住民の平和」のためには必要とさえ思われます。孤児院から判事に「拾い出された」マシューは、判事に恩義を感じながらもきわめて独立志向の強い精神の持ち主でした。彼はいまだ童貞であり、美人人妻のレイチェルの姿に惹かれながらも、それは魔女の誘惑なのか真実のイノセンスなのか迷い続けます。折しも判事は沼沢地帯の気候が災いして病に倒れてしまい、こうしてマシューの孤独な捜査が始まるのです。
歴史の暗部を引き出し、読者にも満足感を与えるという良質のエンタテインメント。しかも最後にはシリーズ化の含みまで持たせているというところが、さすがプロやのう。