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題名:  宮殿泥棒
原題:  The Palace Thief
著者:  イーサン・ケイニン
訳者:  柴田元幸
発行:  文春文庫 (2003/03/10)
価格:  \686
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 イーサン・ケイニンは、現代の家族を基調に据え、しみじみとした感情の交わりを描く作家です。本書(親本1997)は表題作が映画化されるのに伴い文庫化されたもので、昨今のアメリカ小説としては珍しいことに暴力やセックスを前面に押し出したりせず、また露悪者ではない「まじめな優等生」を描いた中編4編を収録しています。
 
「会計士」は妻シェヘラザードとネイオミ・レイチェル・アバの2女1男に囲まれた堅実な会計士ロス氏の話。かつて出資を誘われた叩き上げの工員ユージーン・ピータースは、今やベンチャー企業を軌道に乗せ、アメリカンドリームの体現者です。ユージーンはサンフランシスコジャイアンツのファンタジー・キャンプ(かつての大リーガーたちとの合宿)にロス氏を誘うのですが、もちろんお互いビジネスがらみは承知の上なのでした。成金ユージーンの俗物性と、野心を抱きつつも結局マイホーム肯定者となる中年会計士の対比―と言いたいところですが、技術屋としては、ユージーン別にいいじゃん!と思うけどなー、その悪い性格は別として。ラスト、娘と感情の交流する一瞬は文章でしか捉えられない技でしょう。
 
「バートルシャーグとセレレム」は著者の長編『あの夏、ブルーリヴァーで』と同様に兄弟を主人公に据えた物語。天才数学者となるべく運命づけられた兄が、地下室に家出した同級生の少女をかくまいます。僕は彼女の存在にドキドキするばかり…。
 こういう少年ものはひねりが効かないだけに、むしろ素直に入ってくるところがいいですね。この感情を大人になっても引きずるのは、優しさなのか成長していないととるべきなのか困るところですけど。優しさは忘れてはいけないが、それを売りにするのはちょっと気恥ずかしいつーこともあったりして。それでもわたくしはこれがもっともお気に入りなのでした。
 
「傷心の町」は中年過ぎて妻に家を出て行かれた男性と大学生の息子のつきあい方、みたいな。男の行動は、すべて別れと孤独の中に突き進んで行きます。まあ、これだけ自分のことを知っている「良き息子」がいたら、妻に出て行かれても満足でしょう。
 
 表題作「宮殿泥棒」は、かつて劣等生でありながら今や産業界の大立者で、父の後を襲って上院議員に立候補するセジウィック・ベルと実直な歴史教師ハンダートの苦悩と達観を描きます。ズルっ子セジウィックを面罵しちゃえば従来のアメリカ風、ねちねちやっつけるのは日本風、結局やっつけられないのはケイニン風。長い物に巻かれちゃうのだけど、後味はけっして悪くはありません。われわれはいずれも弱い個人にすぎないが、べたべたと「弱さ」を舐めあうということではなくて、たぶんどこかに理解者がいる、共通項を持つ人がいるってことを語りかけてくれるおかげでしょうか。


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