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題名:  大統領の秘密の娘
原題:  The President's Daughter
著者:  バーバラ・チェイス=リボウ
訳者:  下河辺美知子
発行:  作品社 (2003/09/20)
価格:  \2,800
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最も効率的な経営とは掠奪と搾取である。米国発展の基礎もそこにあった。
【内容紹介】
 ヴァージニアの小高い丘に経つ白亜の豪邸モンティチェロ。ここは「国家の父」、独立宣言起草者にして合衆国第三代大統領トーマス・ジェファーソンの住む城であった。今、この屋敷から一人の美しい「白人」女性が旅立とうとしていた。彼女の名はハリエット・ヘミングス。父は元大統領その人でありながら、それは公言してはならぬこと。なぜなら彼女の身分は、あくまでも私有奴隷であったから。
 ジェファーソンの執事を務めたフランス人プティの助けを得て、彼女はフィラデルフィアに向かい、白人女性として新しい人生を始める。女学校では親友シャーロットを得て、彼女の世界は広がるのだが、一方ではつねに過去に怯えて暮らす日々でもあった…。
【感想】
「すべての人間は平等に創られ…」と崇高な精神を謳い上げた米国独立宣言。しかしその起草者として知られるジェファーソンは、黒人の血を引く愛人サリー・ヘミングスを「財産として所有」していたといいます。それは彼の生前から根強く囁かれていたゴシップであり、大統領選挙戦のさなかには新聞にすっぱ抜かれたことすらありました。しかしその記事を書いた記者は不審の死を遂げ、以後真相は藪の中となります。この噂に触発されて書かれた作品に、エリクソンの『Xのアーチ』がありますが、それほどまでにアメリカ国民にとっては、重大な事件なのでしょう。
 すでに妻と死別していた彼が愛人を得たところで倫理的な非難は僅かでしょうし、白人の旦那衆やドラ息子が私有財産である黒人女奴隷に手を出すのは公然の事実、しかし「国の父」がたとえ1/8でも黒人の血を引く奴隷女の父になってはまずい。黒人の血が何分の一に薄まれば「人間」の仲間と言えるのか、ジェファーソンは真面目に論考します。そのナンセンスさにすら気づかない傲慢さ、偏狭さ。それは現代にも尾を引いています。
 もっとも、偉そうなことは言えませんけどね。わたくしにしても、それじゃ彼女はどのくらい「黒かった」のか、あるいは美人だったのかと言ったことが、頭の中をよぎりましたから。自分との外見の相違、それが差別につながる価値観であることは頭では知りつつも、なお心のどこかに淀んでいるのかも知れません。念のために申し添えれば、ハリエットは外観上は白人、しかも美人。過去を知られなければ、無敵の南部娘で通ります。安心した人、手をあげて。
 
 この物語は、「秘密の娘」ハリエットが解放奴隷の身分のまま白人女性として新しい人生を掴む姿を描きます。彼女はフィラデルフィアの女学生として出発し、やがて奴隷解放運動にのめりこみます。しかしそれは二重の裏切りにもつながりかねません。黒人の血を引くことを隠し、さらには「理解ある白人女性」という役を演じなければならないのです。
 モンティチェロを出てからの彼女の回りには、シャーロットや夫となる双子のサンスとソーの兄弟はじめ、善なる人々が引き寄せられてくるようです。しかし、彼女が名実ともに奴隷身分から解放されるには、長期にわたる「内戦」とリンカーンの奴隷解放宣言を待たねばなりませんでした。優柔不断な大統領は奴隷解放によって起きるであろう白人社会への影響と、奴隷制により安価な綿を生産する南部連合を批判するヨーロッパとの板挟みとなって戦争を長引かせ、犠牲は増える一方でした。その南北戦争では、すでに母となっていたハリエットも看護婦として北軍に参加したのです。
 本書はあくまでフィクション―それも長大にして緊迫感に満ちた作品ですが、さらに米国の裏面史に興味のある方にとっては見逃せない一冊と言えるでしょう。
 

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