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題名: 審判
原題: Der Process
著者: フランツ・カフカ
訳者: 池内 紀
発行: 白水社(カフカ小説全集2) (2001/01/25)
価格: \2,800
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【内容紹介】
悪事を働いた覚えがないのにもかかわらず、ある朝ヨーゼフ・Kは逮捕された。彼が「どんな罪で?」と聞いたのに対し、逮捕に来た監視人は「われわれは関知しない」と言うばかり。無責任なのかそもそも無知なのか。そればかりかこいつらは人の朝食を平然と平らげた上に、ヨーゼフが多大な関心を抱いている隣室のビュルストナー嬢の部屋まで上がり込むのだ。銀行では支配人の地位にあるヨーゼフだ。勤めは続けてもかまわないと言われたのはありがたい。ビュルストナー嬢に誤解されるのがいやなのを除けば、特に不自由はないようにも見えた。しかしある日、電話で通告があった。日曜日に審理が始まると。それがいったい何時からなのか分からぬまま、ヨーゼフは町はずれのその界隈に近づくのだった…。
【感想】
カフカが残した3編の長篇の中でも、もっとも「カフカらしい」と言われる作品です。短編にしばしば見られたお遊びはほとんど影をひそめ、この世界では「不条理」はファルスどころではなく日常生活にドカンと君臨します。
しかし、この『不条理』という言葉は実に便利ですな。これさえ使えばこの微妙なるズレ・焦点のボヤケ、何となく納得が行くではありませんか。たとえばヨーゼフが出廷する場面。それは門高き権威あるいかめしい法廷ではなく、どうやら貧民街のはずれのアパートらしい。彼はその「法廷」に覚えがあります。すべての読者もまた記憶の底にあるはずです。うす汚いガキの頃に迷い込んだこれまたぬかるんだ汚いバラック街のような。いじめられて逃げ込んだ体育倉庫のような。あるいはあの悪夢の世界をも想起させるでしょう。決められた時間決められた場所に、さまよえばさまようほどどうしてもたどり着けない夢。さらにその場に出てくる人々の顔、顔、顔のクローズアップ。それらのマスクはあからさまに罵倒せぬまでも、お前は犯罪者だと訳知り顔に囁いているようです。そして「ヨーゼフ=自分」の存在は、不意に不確かなものに見えてくるのです。洗濯女だろうがなんだろうが、「個」としての自分に関心を抱いてくれる存在に縋るしか道はありません。叔父の紹介してくれた弁護士にしても、出さねばならぬ請願書をいつのまにか夢と現実の境界に置き忘れてしまったようなのです。
その場から逃げ出すことはもちろん不可能、なにしろこの作品では、なんの罪やら知らぬうちに逮捕されたばかりではなく、著者の手によって結末はすでに決定済みなのです。これに向かって収斂して行くのはヨーゼフや読者だけではなく、もちろん著者もご同様であり、著者の苦しみは、運命の確定など笑止であることを知り尽くしているくせにそれを設定してしまったことでしょう。
むろん誰にとっても死は確定しています。しかしそこに至る道はかろうじて残された自由であったはずです。それが「悪夢」に堕ちたとき、金縛りにかかったように離脱は許されないものとなります。その人間は他人の目に曝され続ける存在となり、裏返せばそこもここも見知ったやつばかり。その一点に向かってひたすら突き進むのですが、本来あるべき爽快感さえ失われて…。
結末は唐突に訪れます。ほら、そこに。