==============================================================
題名:  商道(サンド) (上下)
原題:  San-Do
著者:  崔仁浩
訳者:  青木謙介
発行:  徳間書店 (2002/11/30)
価格:  \4,600
==============================================================
【内容紹介】
 1999年クリスマス。韓国を代表する自動車財閥の総帥キム・ギソプが、自らハンドルを握って自社の車でアウトバーンをテスト走行中に事故死した。かつてキム会長と親交のあった小説家・チョンサンジン(私)は、キム会長の遺品から「財上平如水 人中直似衡」と記された書を託され、同時にキム記念館造営に尽力を要請される。その書は、二百年前に実在した朝鮮史上最大の貿易王、義州商人・林尚沃(イムサンオク)の最後の言葉だった。マスコミ嫌いでひたすら利潤のみを追求しているかに見えた「車の虫」、不羈不遜と言われたキム氏が私淑していたとは林尚沃とはどんな人物だったのか。「私」は、その生涯を追い始め、林尚沃こそが「商業之道」をこの世で極めた「商仏」であることを知るのだった…。
【感想】
 本書は、韓国企業人・ビジネスマンに広く受け入れられ300万部ものベストセラーとなった作品の翻訳で、ビジネス書と取られないようにわざわざ「歴史エンタテインメント」と銘打っております。それにしても人生・趣味・仕事・スポーツ、何に寄らずスピリットを求める「道」好きは、日本人に限らず中国・朝鮮もご同様ですね。本書では対清人参貿易で名を馳せ、私利私欲よりも世のため人のためにお金を稼ぎ「商道(サンド)」の粗とされる実在の豪商の生涯が描かれております。
 
 主人公である林尚沃は、身分的には両班(士大夫階級)ではなくて一介の市井人にすぎず、しかも財産世襲を自ら放棄したこともあり、その資料は決して多くはありません。ただ彼の号を取って名付けた詩集「稼圃集」が残っており、その人となりをうかがうことができます。その数奇に満ちた生涯はもちろんほとんど著者の創造でしょうが、驚くのは、史記はもちろん孔老荘韓非子から詩経易経、仏門で修行したことから碧巌録も重要という博覧強記ぶり。まさにただ者ではありません。しかも生涯に起きる3度の危機は、洪景来率いる革命軍への誘いなど、いずれも一歩間違えば破産にとどまらず首が飛びかねないものなのですが、仏門時代の師匠石崇和尚の教えと持ち前の度胸・才知、歴史の知識で乗り切って行きます。
 さらに興味深いエピソードは、キム会長の遺品から発見された、謎の欠けた盃にまつわる不思議な物語。その作中作とも言える来歴は、それだけで悲しみに満ちた一編の小説と言えるでしょう。
 また、なにしろエンタテインメントですからガチガチのお説教だけではなく、反乱に与して陵遅処斬の刑となった親友李禧著の遺女・松伊とのラブシーンもしっかり用意されてはいます。もっともややぎこちないのは、やはり著者も林尚沃も根がまじめなのでしょうね。
 このようにして最後には、世の財物は「私」するものにあらず水のごとく平らになるものと「商業之道」を見極め、私財を放擲して林は舞台から退場するのです 。「思想」というにはかなりナイーブですが、かの国のみならずわが国の政財界の方々には是非見習って頂きたいところです。 ま、例によって肝心の所は誰も見習わないでしょうけど。それにしてもこの圧倒的な引用文献と知識量は、むしろ中国故事好きに受け入れられそうかもしれません。

BACK1