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題名:  城
原題:  Das Schloss
著者:  フランツ・カフカ
訳者:  池内 紀
発行:  白水社(カフカ小説全集3) (2001/04/05)
価格:  \2,900
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「あなたは何に対しても言い返して、それで何を得たというの?」―フランツ・カフカ最後の長篇「恋愛」小説。
【内容紹介】
 ある冬の夜、雪深い村に一人の測量士がたどりついた。その村は「城」のヴェストヴェスト伯爵とその役人たちの支配下にあり、彼は伯爵に測量の仕事を依頼されたと主張する。しかし辺境らしからぬ複雑な行政機構の中にあって、その命令はいったい事実なのかどうかさえあやふやなのだった。翌日彼は城に出向こうとするのだが、確かにそこに見えている筈の城には、どうしてもたどり着けない。目的を見失って帰るに帰れず村に逗留する羽目に陥ったKの前に、助手二人が現れた。とすると、Kはやはり測量士として遇されているのか。さらにKは、城の高官(らしい)クラムの愛人だった酒場の女給フリーダと、恋に落ちてしまい、一層抜き差しならぬ羽目に陥るのだった…。
【感想】
 カフカ最後の長編小説は第一長編『失踪者』(「アメリカ」)同様に、結末のない小説です。もっとも唯一結末を持つ第二長篇『審判』にしても「完成作」というわけではありませんけどね。これら未完放棄の小説などそもそも出版されることさえ不自然なのに、彼に限っては今なお読まれ続けるというのも不思議ですが、これらに描かれた現代人の持つ不安の病巣が読者の共感を誘うというよりは、蜂窩織に入り込んでいらいらと刺激を与え続ける効果によるのでしょう。それはこの最終長篇で特に顕著です。
 例えば本作では、前2長篇や短編で見られた、ファルスあるいはスラップスティックにつながるようなナンセンスは、ほとんど影を潜めています。唯一おかしみを誘う書類に忙殺される役人たちの描写にしても、変に寒々としているのです。あるいはトゥイードルダムとトゥイードルディのようにも思える二人の助手。これまでのカフカであれば、おそらく乗りまくって二人笑劇くらいのことはやったかも知れません。しかし、この作品に出てくる二人は、剽軽であるにもかかわらず冥王の持つ一対の眼のように不気味な存在とすら思えます。この手のサブキャラらしく気が利かず、ドジを繰り返すのですが、その表情は平板のままなのです。
 さらにここでは、村を覆う「城」という組織の重圧も看過できません。村人たちはもちろん城に反抗するなど思いもよりませんし、Kの恋人となるフリーダにしても城の官僚・クラムに奉仕する存在でした。閉鎖的圧政の悲劇は、廃人同様となった消防団長のエピソードにも及びます。
 そもそもKには、この村にとどまる必然性はありません。彼はむしろ強引に囚われ人を志願しているようにも見受けられます。おそらく当時の測量士とはある程度敬意を表されるべき仕事なのでしょうが、学校の住み込み小使になってでも、村に止まることを選びます。それはフリーダとの恋愛のためなのでしょうか。
「もしあの夜、村を出ていたら、わたしたちいつも一緒にいられた…あなたがそばにいること、それはわたしが見られるたったひとつの夢なの」
 このように二人でどこか他の土地へ行こうという話は出るものの、それが決して実行に移されないことはどちらも知っています。選択の余地を自ら封鎖し、彼らは完結世界を内側から塗り固めようとします。恋愛すらも、その行動の正当化の果てにあるようにも思えます。城はすでに辿り着こうとする対象ではありません。厳として存在し、自己が支配されること。政治によって、あるいは愛によって。それらの理由・原因はやがて意味を失うでしょう。それこそがわれわれにとっての「安住の地」だと言いたげですらあるのです。このようして失われた自由、それこそは「悲しき現代」への予兆なのでしょうか。


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