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題名:  シェル・コレクター
原題:  The Shell Collector
著者:  アンソニー・ドーア
訳者:  岩本正恵
発行:  新潮社(クレストブックス) (2003/06/25)
価格:  \1,800
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 著者ドーアは1973年オハイオ生まれ、アメリカ人ながらベトナム戦争さえほとんど知らない世代と言えますが、フィッシングなどによって自然に親しみ、また世界各地を旅行して国際的な視野を得てきたことがここに収められた作品群からうかがえます。そのいずれに対しても無条件の礼賛にはとどまらぬ深い視線を感じさせるのは、天成のものなのでしょうか。
 
 表題作「シェル・コレクター」は、ケニアの孤島でシェパード犬だけを友達に一人貝を採集して暮らす盲目の老貝類学者を描きます。その静謐な暮らしに迷い込んできたアメリカ人女性のマラリアが貝毒で偶然治癒したことで、彼の生活は一変します。現地の者からは呪医扱い、テレビクルーの取材さえドカドカと到来する騒ぎ。しかしそうした状況の彼を最も理解していなかったのは最も彼を理解すべきであるはずの一人息子であり、彼が再び静寂を取り戻す過程で力になったのは、かつて彼が助けた娘シーマとの心的交流でした。その老人と少女の姿が、あくまでも美しいアフリカの海をバックに描かれます。
 
「ハンターの妻」は2002年度O・ヘンリー賞受賞作。「ハンター」というよりまさに「猟師」あるいは「マタギ」と言ったほうが似合いそうな武骨な三十男が主人公です。旅回り奇術師の助手の少女に恋をして3年かけて口説き、妻としたのですが、彼女はある能力に恵まれていました。それは命を奪うことを生業とする「ハンター」とは相容れないものでもあったのです。やがて彼女は南にトラックを走らせてそのまま帰らず、20年後、ふたりは再会するのですが果たして理解しあえるのか…。野性の領域に踏み込んだ人間だけが許される世界と「超自然」との融合が独自の雰囲気を醸成しています。
 
「長いあいだ、これはグリセルダの物語だった」グリセルダとローズマリーの姉妹は母と三人暮らし。18歳の姉はなんと「金物喰い」の芸人と出奔してしまい、彼の助手として世界のあらゆる場所から手紙を送りつけて来ます。妹は母と同様全く地味に紡績工場で働き続け、やがて結婚します。10年後母が死に、その数年後、「金物喰い」が助手の姉を伴って再び町にやってくるとの連絡が…。「日常生活」の重さを思いがけないほど素直に捉えて、これはちょっと寒毛立つような感覚におそわれましたね。
 
「七月四日」は「七月四日に生まれて」という映画を想起させる題名。やっぱりアメリカ人にとっては特殊な日なのですな。いや、これは戦争の話ではなくて「釣り合戦」というおちょくりユーモア編なのですけど。
 
「世話係」は長篇の風格も備えた読みごたえある小説。内乱のリベリアを逃れた青年ジョセフは、逃亡の過程で強制されて人を殺してしまいます。なんとかオレゴンにたどりつき難民として認定され、冬季の別荘管理人の仕事にもありつくのですが、海岸に打ち上げられたマッコウクジラの心臓を埋葬したことが象徴行為となって仕事を忘れてしまいます。
 人間あるいは動植物の生と死、さらに少女の成長といった、この作者のエッセンスが詰まっている作品。うますぎっという感もあったりして。
 
「ムコンド」(「流れ」のこと)は、オハイオ州立自然史博物館からタンザニアに鳥の化石採集に派遣された男の物語。彼はそこで「走る女」を見つけて恋に落ちてしまい、彼女を追いかけて求婚できるまで走り続け、アフリカからアメリカに連れ帰ったのだが…。故郷の大地から引き離された残酷さと、彼女の回生が見事な対比を見せています。
 
 以上のようにほとんどの作品に出てくる人物は「出奔」や「他郷で暮らす」ことを選んでいます。この著者のように「自然」と「超自然」とを平行視できるためには、そうした障壁をふわりと超えなければならないのでしょうね。
 
このほか、14歳の少女の一夏の精神的成長を描く「たくさんのチャンス」、釣師の秘密を描く「もつれた糸」を収録。海の声が聞こえてくるような表紙もなかなかマッチしています。今後が楽しみな作家の一人と言えるでしょう。


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