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題名: 白い犬とブランコ 莫言自選短編集
原題: 莫言小説精短系列
著者: 莫言
訳者: 吉田富夫
発行: 日本放送出版協会 (2003/10/25)
価格: \1,700
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著者の作品を一度でも読んだことがある方ならお馴染みの、高密県東北郷を舞台に、自身の生い立ちやかの地に残る伝承を下敷きとした自選短編集。彼の持ち味は濃厚な長篇にあると思われがちですが、これらの短編においても、田舎の人情と現代の矛盾をさりげなくあぶり出して見せます。
「竜巻」(原題「大風」)
「ぴんぴん爺様」とあだ名されていた篤農の祖父が亡くなり、里帰りするわたしの脳裏に、子どもの時二人だけで草刈りに出向いたときに体験した竜巻の記憶がよみがえります。帰ってみると、祖父もその記憶を共有していたことが示されるのです。それもわたしと祖父だけにしか分からない形で。亡祖父と心情の繋がった瞬間が実に鮮やかに迫ってきます。
「涸れた河」(枯河)
木登り遊びをしているうちに、党の書記様の幼い娘に怪我させてしまった少年一家の悲劇。革命後にあっても、理不尽とは知りつつ帝政時代と同様の階級的矛盾を受け入れてしまう庶民の悲しさ。このテーマは繰り返し扱われます。
「洪水」(秋水)
祖父様は湿地帯を開墾したのですが案の定洪水が襲ってきて、かろうじて家だけが小島のように顔を出しています。折しも祖母様は難産に喘いでいたところ、そこに女医者や盲目の娘を連れた黒衣の男が次々と流れ着いて来るのでした。ピカレスクのようであり、怪談にあるような悪夢的因果物のようでもあり、不思議な雰囲気を漂わせる作品。
「白い犬とブランコ」(白狗秋千架)
久しぶりに帰省したぼくは東北郷原産の白い犬に導かれ、ぼくより年若の「叔母ちゃん」と呼んでいた幼なじみに再会します。10年前、ぼくは犬と彼女と一緒にブランコに乗っていて怪我させてしまい、二人の運命は大きく食い違ってしまったのでした。青春前期の疑いの知らない憧れと、現実の苦さのギャップが衝撃的です。
「蠅と歯」(蒼蠅)
これは兵役時代の班長の思い出がメインなんだけど、スイカ泥棒や嫁さんかつぎ、手榴弾の練習風景など、ぐうたら兵隊の私と、要領を旨とする古参班長の掛け合いが思わず笑ってしまいますね。著者ご自身の体験がかなり入っていると思われます。
「戦争の記憶断片」(凌乱戦争印象)は日中戦争当時、アメリカの飛行兵がその地にいたときの爺さんの記憶が語られます。いわゆる日本鬼子と中国人傀儡軍が提携していたことを伺わせる記述が興味深いところ。
「愛情」(愛情故事)
下放された知識女子青年に恋心を抱いてしまった十五歳の小弟の物語。彼女の演武は国際的にも認められていたほど見事なものでした。「身分違い」「年齢差」など旧弊なシチュエーションを逆手に取り、あえて突き放したような展開が鮮やかです。でも綺麗な娘はどこに行っても綺麗なのだ。
「奇人と女郎」(神標)
民国初期、東北郷にいたひとりの快人物の畸人伝。季范先生の従者を若い頃に勤めた曾祖父は、折りにつけ先生の思い出を祖父に話し、さらにわたしたち兄弟に伝えられました。その中でも正月の女郎総揚げのエピソードは、何度もお話をせがんだものでした。日本の「粋」とはちょっと違ったかっこよさが決まった作品。
「豚肉売りの娘」(屠戸的女児)
奇形の少女の独白でかなり暗い印象を受け、著者のある一面を窺わせます。豚の落とし方などは『白檀の刑』あたりを彷彿とさせます。
「初恋」(初恋)
子供にとっては天下の大事件、上品な美少女、それも党幹部の娘が転入してきた! 要領の悪いわたしはもとより、いじめっこの杜風雨すらもその魅力の前にはメロメロ。しかし貢ぎ物を贈呈したくとも、田舎の小せがれにはろくな物などないのだった…。恋心は万国共通と言いながら、この厳然たる「階級差」にはため息ですね。
この他、公安に逆らって自害したお父の残した猟銃の因果話「猟銃」(老槍)、「かおなし」も出てくるショートホラー「奇遇」(奇遇)、
叔父さんと蟹の夜漁に出かけた少年の幻想説話小説「夜の漁」(夜漁)、鍛冶屋と孫家の姑媽、その三人娘の思い出「秘剣」(姑媽的宝刀)を収録。