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題名: スパイたちの夏
原題: Spies
著者: マイケル・フレイン
訳者: 高儀 進
発行: 白水社 (2003/03/25)
価格: \2,200
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【内容紹介】
夏の空気の中にある、あの恐ろしい、人の心を乱すものは一体何なのだろう。かつての敵国ドイツでテクニカルライターとして生活しているわたしの思いは、夏がめぐるたびに60年前に帰る。ロンドン近郊の「クロース」と呼ばれた町。ドイツ軍の空襲におびえながらも幼い戦闘心を燃やし、一人前の「英国市民」になろうとしていた日々。わたしと友人キースは、暗躍するドイツのスパイたちを探り出そうと子どもらしく熱中していた。そのキースの母は茶色の目を輝かせ、わたしの手を取り、わたしに約束させ、そして泣いていたのだ。彼女はいったい何を守ろうとしていたのか。わたしはついに過去からの誘惑に屈し、ロンドンを訪ねたのだ…。
【感想】
戦後すでに…60年にもなろうとしているのですね。わたくしの小さいとき、まあ、さすがにギブミーチョコレートの時代ではありませんが、見上げるような大男のGIたちが略帽から覗くクルーカットも鮮やかに、まだまだ町中を闊歩していました。子どもたちの「宝物」もなかなか物騒で、機銃の薬莢はもとより三八歩兵銃の実弾を学校にまでこっそり持ち込んで見せびらかす奴さえいました。母からも空襲の体験談、とりわけ女子挺身隊で労働奉仕をしているときに機銃掃射を受け、隣で伏せていた級友が不意に動かなくなった話なども聞いたものです。父は生き延びて結婚しわたしたちを設けましたが、叔父だった人は軍国少年の心情を綴った克明な日記を残しながら、出征後一発も敵に弾丸を撃つことなくフィリッピン沖で魚の餌となっています。
戦争の過去は国だけではなく個人のものであり、さまざまな体験を産み出します。それらのほとんどは語る者・記す者がないままに消えていくのでしょう。人間の発展の根源には記憶の共有があったはずなのに、それら不必要とされた記憶は痕跡さえとどめず時間の中に消えて行きます。
本書の舞台設定は、「個人的第二次大戦回想」という、もはや書かれることのない最後のシチュエーションと言えるかも知れません。戦場経験者はもちろん、少年時代に戦争を体験した者にとっては、その残酷さはともかく非日常的な日々であり、一種のお祭りですらあったのでしょう。不自然なほどの高揚感に包まれ、不自然なまでの国民的連帯感に身をゆだね、少年たちはスケープゴートを探します。第一次大戦で将校として活躍した父を持つ友人キース、その叔父は爆撃機のパイロットとして子どもたちのヒーローです。自分も一人前の男として何かしなくては…。
「なにも分かっていなかった」―悔恨は成長して初めて知ることのできる感情です。なにもかも昔のままであり、何もかも変わってしまったかつての居住地。そこには少年たちの目に見える「スパイ」だけではなく、今だから見えるさらに深い対立も潜んでいました。老いた主人公の回想は、ともすればノスタルジーに陥りそうに見えながらも、舌の上にいつまでも苦みを残すことでしょう。