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題名:  夢宮殿
原題:  Le Palais des Reves (1990)
著者:  イスマイル・カダレ
訳者:  村上光彦
発行:  東京創元社 (1994/09/30)
価格:  \1,800
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【内容紹介】
 時は19世紀、一時は世界最大最強を誇ったオスマン・トルコ帝国にも凋落の兆しが見え始めていた。国境を接するロシアやオーストリアの圧迫は日に厳しく、領有地バルカン半島でもアルバニアをはじめとして不吉な噂が絶えない。その首都の奥のさらに奥、決して口に出してはならない秘密の建物が存在した。貴賎を問わず国中の臣民どもが見た夢を採取し、選別し解釈し、そして国家と皇帝の運命に関わる未来からの知らせを察知する機関「タビル・サライ」すなわち「夢宮殿」である。傍系ながらアルバニア名門キョプリュリュ家の端くれに連なるマルク=アレムは、大臣の地位にある親戚のおかげか、人々に謎と恐怖をもたらすその役所に職を得たのだった。文字通り悪夢の迷宮にも似た役所に勤務する彼は、自分の夢を忘れることになるだろう。そして彼を見る町の人の目は変わるに違いない…。

【感想】
 誰にとっても未来は常に不確定です。その揺らぎに対する不安と恐怖は、持てる者、権力者ほど強いのは当然でしょう。現代日本にあってすら、多少なりとも「予知能力」があると言われる占い師のもとには、政治家や経済人がお忍びで日参するするというのはしばしば囁かれる都市伝説です。
 世界のどこかの誰かが見る夢、そこにこそ吉凶の予兆が存在するとしたら、権力を持つ者はそれを吸い上げずにはいられぬはず。九重の帳の奥、決して顔を見せないスルタンもまた、常に<親夢>を探しています。天子たる自分、自分の血のつながった者、そして自分の帝国――それらを滅ぼそうとする悪魔は、油断してちらりと天機を漏らすに違いない。もっとも人間どもは、わずかに未来を知ったことでかえって身を揉んでのたうち苦悩し疑心暗鬼に陥るのが関の山。その醜いさまこそが、悪魔にとっては何よりの甘露なのですけどね。
 
 夢…それは持たざる者にもわずかに許された幻想の世界のはずでした。しかしそこに権力が介入したとき、夢を集める組織はやがて官僚化され、それ自体が巨大権力を持つようになって行きます。こうして「夢宮殿」は「夢」を扱いながらファンタジックからかけ離れ、政治的な様相を帯びるのでした。目を血走らせ、夢を集め解釈し、わずかな予兆を探ろうとする役人たち。マルク=アレムは彼らに違和感を感じつつも、自分を見る他人の目が変化したことにも気づきます。それは役人に対する畏敬というよりはむしろ恐怖に近いものです。なにしろ皇帝に届けられる<親夢>はすべて拵え物だとの噂すらあるのですから。
 敵の墓の上に立ち、その敵に決闘を挑むという伝承を持つキョプリュリュ家は、皇帝一族にとって危険な存在とも言えるでしょう。事実気まぐれめいた政変に巻き込まれてしまうのですが、なぜかマルク=アレムのもとには司直の手は及ばず、むしろ事実上の長官に祭り上げられてしまいます。恐れているのは誰なのか、その恐怖をどのように使うか、マルク=アレムは次第に保身の魔法を自分の回りに構築することに成功して行くのでした。
 
 なお、カダレの祖国アルバニアは反ソ親中の独自の社会主義路線を歩んだことで知られていますが、東欧諸国が揺れる中で言論統制も厳しくなり、1990年ついにカダレはフランスに移住したとのことです。数年前に来日されたとのことですが、現在はどうされているのでしょうかね。


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