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題名:  汽車は遅れなかった
原題:  Der Zug War Puenktlich
著者:  ハインリヒ・ベル
訳者:  桜井正寅
発行:  三笠書房 (1974/11/15)
価格:  \890
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ノサックと並ぶもうひとりの戦後ドイツの良心を代表する作家ベルの第一長編。原著1947年。
【内容紹介】
 ロシアからの撤退以来、東部戦線においてすでにドイツ軍の頽勢は濃厚となっていた。その中を、休暇明けの兵たちを乗せて軍用列車は最前線に向かっている。兵たちはすべて、前途に待つのは「死」のみであることを知っている。だがそれに抗するすべがあるわけではない。何の歓びも名誉もなく、ひたすら定められた運命に向かって汽車は走り続ける。
 その途中、列車連絡の都合で降りたポーランドの町レンベルクで、兵士アンドレアスは同乗者たちに強引に娼家に誘われる。そこで彼が出会ったのは、「オペラ歌手」と呼ばれているまだ若い娼婦だった。開戦前、彼女オリーナはピアニストを目指していたのだった。そしてアンドレアスもまた…。
 
【感想】
 戦争の担い手は常に若者である。最も感受性に満ち、祝福されるべき年齢の彼らは、同時に最も殺人者に適している。その理性を奪い、身体を鍛え、目的を吹き込んでやれば容易に殺人者に変貌する。
 だが、彼らとてなお人間としての感情を失ったわけではない。周囲に抗する力を巧妙に麻痺させられているだけだ。だが国家の命令とは言え「殺人」は所詮個人の所業であり、その報いは彼自身の死でしか贖えない。その定められた死、侵略の報いであり何の意義もない死に向かって、兵員輸送列車はひた走る。そこからの脱走は夢でしかない。あまりにも甘美な夢に迷い込もうとしても、すでに身体は言うことを聞くまい。君の表情はゆがむばかりで、何の叫びも挙げられまい。
 
 それでも君は戦争に行きたいか。ヒロイックな気分にひたり「死」なんてたいしたことじゃないと意気がって。なるほど君に限ってキンタマが縮み上がるような恐怖とは無縁かも知れない。ただの酔生夢死よりは、「国」のために「自由」のためにあるいは「陛下」のために銃を取って死ぬ、それはさぞかしカッコいいことだろうよ。もしかすると戦争というものはサラリーマンと同じかもしれない。昼は鉄砲撃って、夜は兵舎に帰ってシャワーを浴び、カードゲームでもしていればいい。近頃じゃどうもそう思っている人も増えているらしいね。
 国とは相互安全保障機構のはずなのに、その構成員をひたすら危険に追いやるとは本末転倒だ。まったく国民なんて、国ぐるみの人質であり、同時に国ぐるみのストックホルム症候群に陥って支配されることを望んでいるようなものだ。
 
 だからこそ、文学は繰り返し戦争を、その悲痛さを語り続けるのだろう。記憶はいつか希薄になる。そしてそれを待っている者たちがいる。
 それを阻みうるものは、我々の持つ「想像力」であり「言語」なのだ。

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